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失業手当またまた変更──
自己都合退職・高額受給者にさらにきびしく
雇用保険等の改正〔H15.5.1施行〕


深刻な失業――雇用保険法またまた改正


 平成14年度の平均完全失業率は5.4%と、過去最悪を記録しました。かつて終身雇用制のもとに、きわめて低い失業率を誇っていた日本も、失業問題が長期化する深刻な事態となっています。
 こうした事態の悪化に雇用保険制度の改革は追いつかず、平成13年4月に大きな改正を行ったばかりですが(「そよ風」114号参照)、わずか2年で、再度の改正が行われることとなりました。この改正により、6%台半ばまでの失業率増加に対処できると、厚生労働省は考えています。

高所得者への給付額大幅カット

 日本では、キャリアアップをはかる転職は少なく、再就職により前の職場より賃金が下がる人が多いのが実情です。しかも、失業手当には税金がかからず、社会保険料も引かれることはありません。そのため、失業手当の方が、再就職してもらう手取り賃金より多いケースまであり、急いで次の仕事をさがすよりも、失業手当を給付日数いっぱいまでもらってから再就職するという傾向が見られました。こうしたことが、雇用保険の財源を圧迫する大きな要因ともいわれてきました。
表1 賃金日額の上限
賃金日額の上限 (基本手当) 
30歳未満  
13,160円(6,580円)
30歳〜44歳
14,620円(7,310円)
45歳〜59歳
16,080円(8,040円)
60歳〜64歳
15,580円(7,011円)
 そこで、失業手当を算出する基礎となる「賃金日額」(離職前6ヶ月の賃金合計を180日で割ったもの)の上限を、表1のとおり引き下げました(法17条4項)。これ以上の収入があった人も、失業手当の計算では、この金額として処理されます。
表2 失業手当の給付率
賃金日額 給付率
60歳未満 2,140円〜 4,210円 80%
4,210円〜12,220円 80〜50%
12,220円〜       50%
60歳〜64歳 2,140円〜 4,210円 80%
4,210円〜10,950円 80〜45%
10,950円〜       45%

 さらに、失業手当の額も、これまではこの賃金日額の60〜80%となっていましたが、これも、高所得者については引き下げることとし、表2・図1のとおり、50〜80%(60〜64歳は45〜80%)ときびしいものとなりました(法16条)。
 こうした措置により、高所得層を中心に失業者の約2割について、失業手当の額が1割以上削減されました。

自己都合での離職には 給付日数さらにきびしく

 失業手当の給付日数も変更されています。
表3 一般の離職者の失業手当給付日数
(定年退職や自分の意思で離職した者など)
被保険者であった期間
        10年未満         10年以上20年未満 20年以上
 全年齢共通  90日 120日 150日

 まず、定年や自己都合などでやめた一般の離職者については、従来の短時間労働被保険者(1週間の労働時間が通常労働者より短くしかも30時間未満の者)の水準にすべて引き下げられました(表3、法22条)。5年以上勤めた人にとっては、給付日数が30日分も減ったことになります。
表4 特定受給資格者の失業手当給付日数
(倒産・解雇等で再就職の準備をする余裕もなく離職を余儀なくされた者)
被保険者であった期間
1年未満 1年以上5年未満 5年以上10年未満 10年以上20年未満 20年以上
 30歳未満  90日 90日 120日 180日
30歳〜34歳 180日 210日 240日
35歳〜44歳 240日 270日
45歳〜59歳 180日 240日 270日 330日
60歳〜64歳 150日 180日 210日 240日
※ 障害者等の就職困難者については、被保険者期間が
1年未満であればすべて150日、1年以上であれば45歳未満300日、
45歳〜64歳は360日となる。

 一方、倒産・解雇等で離職を余儀なくされた人(特定受給資格者。くわしい規定は「そよ風」114号参照)については、短時間労働被保険者も正社員の水準に引き上げられることとなりました。さらに、雇用がきびしくなっている中堅社員に配慮して、10年以上勤めた35〜44歳の人への給付は30日分増やすこととし、表4のとおりとしました(法23条)。
 これにより、失業手当の給付日数は、正社員・パート・派遣社員などの別なく、すべて同一の基準で支給されることとなります。
 なお、新しい基準が適用されるのは、平成15年5月1日以降に離職した人で、それ以前に離職した人には、従来からの基準が適用されています。

正社員でなくても…  パートにも就業手当

 失業手当の額や給付日数の削減が、早期の再就職・再就業を促すためのムチの政策とするなら、再就職手当などはアメの政策といえましょう。こちらも「就業促進手当」として拡充されました(法56条の2)。
 従来からある「再就職手当」と「常用就職支度手当」に、新たに創設された「就業手当」が加わったものです。従来は、正社員など安定した職業についた場合にのみ支給されていたのに対して、この「就業手当」では、これに該当しないパートや派遣労働でも受給することが可能です。「再就職手当」と同様に、失業手当の給付日数がまだ3分の1以上(しかも45日以上)残っている時点で就業することが必要です。支給額は、失業手当日額の30%が就業日ごとに、残日数に応じて支給されます。
 ちなみに、「再就職手当」の支給額もこれにあわせて、従来の3分の1から30%に引き下げられました。

不正受給には2倍の金額の返納も

 「教育訓練給付金」制度をご存じでしょうか。一定の保険加入期間がある労働者が、厚生労働大臣の指定する教育訓練講座を受講したときに、受講費用の一部が支給される制度で、すでに広く活用されておりご存じの方も多いと思います。この制度も大きく変わりました(法60条の2)。
 まず、支給の要件である保険加入期間が、従来の5年から3年へと緩和されました。そのうえで、支給率・上限額は次のとおり引き下げられました。また、対象となる講座の見直しも行われています。

(a) 加入期間5年以上
    教育訓練費用の40%
    上限は20万円
(b) 同3年以上5年未満
    教育訓練費用の20%
    上限は10万円

 対象となるのは、平成15年5月1日以降に受講を開始した人です。なお、教育訓練給付金が支給されるのは講座を修了した後で、途中で挫折した場合は支給されません。

*       *       *

 このほか、高齢(60〜64歳)になっても働き続ける人を支援するための「高年齢雇用継続給付金」の支給水準が引き下げられています。
 また、失業認定にあたっては、従来の「新聞広告でさがした」「知人に紹介を頼んだ」といった求職活動では認められず、失業手当を受けるためには、もっと具体的な求職活動をしていることが求められるように改められました(規則22条)。さらに、近年、企業ぐるみで雇用保険の給付金を不正に受給するといった事件も起きています。そこで、失業手当等の給付金を不正に受けた場合には、その給付額の二倍の金額を納付するよう命じることができるとしました(法10条の4)。

雇用保険料率も17年4月から引上げ

 雇用保険法の改正とならんで、「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」も改正され、一層の保険料の引上げが決定されています。
 現在、失業手当の財源は、国庫が4分の1負担し、残りを労使折半の保険料で賄っています。この保険料は、平成13年4月に賃金の0.8%から1.2%に一気に引き上げられ、さらに翌14年10月からは1.4%(労使とも0.7%ずつ負担)へと引き上げられています。
 この法改正で、雇用保険料率は原則1.6%へとさらに引き上げられました。ただし、暫定措置として、現状の保険料率のまま据え置き、実際に引き上げるのは平成17年4月1日からと予定されています。




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