たばこ・ストレス・飲みすぎ・寝不足・運動不足……
           あなたのからだは大丈夫?!
健康増進法の制定
〜施設内での禁煙・分煙を明記〜
平成15年5月1日スタート



 今や日本は、世界一の長寿国となっています(平均寿命は男性77.9歳、女性84.7歳)。でも、ただの長生きではつまりません。文字どおり「元気で長生き」が人々の願いといえましょう。また、平均寿命の伸びと同時に、国民医療費は増大しつづけ、健康保険の財政は破綻寸前です。いかに病気にならない健康な生活を送るかは焦眉の課題であり、さまざまな取組が進められてきました。

生活習慣病対策〜早期発見・早期治療

 近年、日本人の死因は、がんが約3割、心臓病・脳血管疾患などが3割を占め、いわゆる生活習慣病が大きな問題となっています(右図参照)。
 生活習慣病とは、その名のとおり、日々の生活習慣が原因で発症する病気です。肥満・過度のダイエット・運動不足・ストレス・喫煙・飲酒……わたしたちの生活には不健康になる要因がいっぱいです。これらは、病気になってはじめて後悔することが多く、しかも生活習慣病は、痛みを伴わない肥満・高血圧などの形で進行していくので、気がついたときにはもう手遅れということが少なくありません。
 そこで、1978年(昭和53年)からは第1次国民健康づくり対策を、1988年(昭和63年)からはとくに運動習慣に重点をおいた『アクティブ80ヘルスプラン』(第2次国民健康づくり対策)を実施してきました。しかしこれらの取組は、いずれも、病気が進行するまでに早く発見し治療しようとする、いわゆる“早期発見・早期治療”に重点をおいたもので、いわゆる二次予防が中心となっていました。

一歩進んで――生活改善=健康づくり

 しかし、生活習慣病は個人一人一人が生活習慣を改めることで、病気の発生そのものを予防することも可能です(一次予防)。
 そこで、2000年(平成12年)より、21世紀における国民健康づくり運動として『健康日本21』が開始され、病気にならないための健康づくりに重点がおかれるようになりました。
 このなかでは、栄養・食生活、運動・身体活動、休養・こころの健康づくり、たばこ、アルコール、歯の健康、糖尿病、循環器病(心臓病・脳卒中)、がんの9分野70項目にわたり、2010年を目途とした具体的な数値目標が設定されました。
 たとえば、80歳で20歯以上残っている人を20%以上にしようという“8020運動”(現状は11.5%)もこれにあたります。このほか、野菜の摂取量は成人で1日350g以上(現状292g)が目標です。さらに、日常生活における1日平均歩数は、男性9200歩、女性8300歩以上(現状の約1000歩増)と定められました(70歳以上の高齢者では各6700歩・5900歩で、現状の約1300歩増)。

国民の健康増進のための基本法を制定

 そしてこのたび、国民の健康増進のための基本法として、新たに「健康増進法」が制定され、平成15年5月1日から施行されました。
 国民は、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚し健康増進に努めること、また、国や地方公共団体は、健康増進に関する正しい知識の普及や分析・研究の推進、人材の育成、技術的援助の提供等に努力することが明文化されました(2・3条)。
 厚生労働大臣は、国民の健康増進のための総合的な計画「基本方針」を作成して公表します(7条)。すでに平成15年4月30日付で「国民の健康の総合的な推進を図るための基本的な方針」が公表され、9月が「健康増進普及月間」と定められました。都道府県や市町村も、この基本方針にそって、それぞれの地域の実情にあった計画を立て、それを実施することとなります(8条)。

“栄養改善”をさらに拡充深化し、新法で規定

 ところで、国民の栄養改善により健康・体力の維持向上をはかるための法律として、「栄養改善法(昭和27年制定)」がありました。今回、この法律を廃止し、「健康増進法」の中に、その内容が拡充して盛り込まれています。


 まず、従来の国民栄養調査に加えて、国民健康調査も行われることとなりました。この調査は無作為に選ばれた世帯に対し、国が費用を負担して行われます(3章)。
 また、市町村での栄養相談が生活習慣相談に拡充され、栄養指導員制度も引き継がれることとなりました(4章)。
 さらに、特定給食施設(集団給食施設)についても制度が引き継がれるとともに、従来より管理が強化され、管理栄養士を設置しない、また適切な栄養管理を行わないような場合には勧告・命令することができるとし、これに従わない場合には50万円以下の罰金となりました(23条、37条1項)。また、必要に応じて業務の報告をさせることができるとし、虚偽の報告をした場合には30万円以下の罰金に処せられます(24条、38条1項)。
 さらに、食品のうち、乳児用・幼児用・妊産婦用・病者用など特別の用途に適する旨の表示をつけた食品(特別用途食品)についての規定も新法に引き継がれました。たとえば、とくに健康維持・増進に効果があると認められた食品である「特定保健用食品」もこれに当たります(「そよ風」94号参照)。こうした表示については、許可なしに表示した場合には、従来は5万円以下の罰金でしたが、新法では50万円以下の罰金と厳しくなりました(37条2項)。

タバコについて特記――
多数の人が集まる施設では禁煙・分煙の努力を

 さらに新法では、とくに「受動喫煙の防止」について一節が設けられています。
 飲食店などで、禁煙席といっても名ばかりで、たばこの煙が流れてきて嫌な経験をしたことがある人も多いことでしょう。今回、そうした受動喫煙を防止するために、多数の人が利用する施設においては、その施設を管理をする者が必要な措置を行うよう努力することが明記されました(25条)。
 学校・体育館・病院・劇場・観覧場・集会場・展示場・百貨店・事務所・官公庁施設・飲食店・その他多数の者が利用する施設がすべてこれにあてはまります。もちろん、駅・バス・タクシー・航空機・屋外競技場・商店や旅館・金融機関・美術館なども含まれます。こうした場所では、完全禁煙とするか、分煙を徹底することが求められるようになります。分煙については、非喫煙場所にたばこの煙が流れ出ないようにしなければならず、たとえば、非喫煙所から喫煙所の方向に一定の空気(0.2m/s以上)が流れていることなどが目標とされています。
 すでに、本法の施行をうけて、高速道路のサービス・パーキングエリア内の建物や関東の大手私鉄8社の全駅では全面禁煙が実施されています。また役所内を全面禁煙とするところも出てきました。しかし、この受動喫煙防止は今のところ罰則なしの努力義務規定に止まり、各施設での今後の取組が期待されます。 




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