<この記事は,2003年(平成15年)4月号の内容に,その後の改正をふまえて若干の訂正を加えたものです>

法律の専門家=弁護士?! ばかりじゃありません!
一定額以下の争い→司法書士
知的所有権の争い→弁理士
でも代理がOK!
司法書士法・弁理士法の改正
今、司法制度の改革が急ピッチで論議されています。立法・行政とならぶ三権の一つ「司法」が、近く大きく変わろうとしています。
これに先立って、従来は弁護士だけが独占してきた裁判・訴訟の代理権を、ほかの隣接する法律専門家にも広げる措置がとられるようになりました。
平成15年4月1日からは、「司法書士法」が改正され、一定の裁判手続きについて、司法書士が代理人として手続きを行なったり、法廷に立つことができるようになります。
対象となるのは、90万円<平成16年4月1日より「140万円」に引き上げ。裁判所法33条>を超えない額の民事紛争に限られます。この90万円<平成16年4月1日より「140万円」に引き上げ。裁判所法33条>以下の争いについて、(1)簡易裁判所での民事訴訟・即決和解・支払督促・証拠保全・民事保全・民事調停の各手続きにおいて代理人となること、(2)相談に応ずること、(3)裁判外での和解の代理人になることが、新たに認められました(簡裁訴訟代理関係業務、3条1項6・7号)。
これまでも、司法書士は、裁判に関する書類を作成することはできました。しかし、当事者の代理人として、本人に代わって手続きをする権限はありませんでした。今回の法改正はこれを認めたものです。
従来、簡易裁判所で行なわれる民事訴訟において、弁護士が代理人についている事件は約10%しかなく、ほかは素人の当事者本人が訴訟を行なっていました。また、全国438の簡易裁判所のうち、弁護士がいるところは約65%にすぎず、ほかは遠方の弁護士に依頼するしかなかったものです(これに対して司法書士は、簡易裁判所の所在地の約98%で業務している)。
この簡裁訴訟代理関係業務を行なえるのは、日本司法書士連合会の行なう研修を受け、さらに筆記試験に合格して法務大臣の認定を受けた司法書士に限られます。また、90万円<平成16年4月1日より「140万円」に引き上げ。裁判所法33条>を超える争いについては代理できないのはもちろん、90万円<平成16年4月1日より「140万円」に引き上げ。裁判所法33条>以下の事件でも、上訴の提起や再審・強制執行の手続きは扱うことができません。
ただ、この「90万円」という額は、裁判所法33条1項1号で、簡易裁判所の管轄とされる額に基づいており、現在、この金額を引き上げることが検討されています。この法改正が行なわれれば、近いうちに140万円(政府案)に引き上げられることとなります。
〔即決和解・支払督促・証拠保全・民事保全・民事調停・強制執行については、「ことば欄」参照〕
また、すでに平成15年1月1日から、弁理士にも、訴訟代理人となる機会が与えられています。
「弁理士法」の改正により、これまで訴訟には補佐人としてしか出廷・陳述できなかったものが、弁護士と並び、代理人を務めることができるようになったものです。
弁理士が代理人となることができるのは、特許・実用新案・意匠・商標・回路配置に関する事件に限られ、それらの権利が侵害されたり、あるいは、特定不正競争によって営業上の利益が侵害されたときの訴訟に限定されます(特定侵害訴訟、2条5項)。これら知的所有権をめぐる訴訟は近年増えつづけ、この10年間で約2倍になり、弁理士という専門家がこうした訴訟に加わることにより、スピーディーな解決が期待されています。
ただし、代理人になれるのは、一定の研修を受けたうえで、論文式の「特定侵害訴訟代理業務試験」に合格して、その旨の登録を受けることが必要条件です。また、同一の事件を、別途弁護士が受任していることが大前提で、裁判所には原則として、この弁護士とともに出廷することになります(6条の2、裁判所が認めれば弁理士単独での出廷も可能)。
このほか、すでに平成14年1月から、税理士も、租税に関する訴訟では、補佐人という形で出廷・陳述することが認められています。
「士」業で認められた法人は…
監査法人 公認会計士5名以上(昭和41年7月より)
特許業務法人 弁理士2人以上(平成13年1月より)
税理士法人 税理士2人以上(平成14年4月より)
弁護士法人 弁護士1人でもOK(平成14年4月より)
司法書士法人 司法書士2人以上(平成15年4月より)
土地家屋調査士法人 土地家屋調査士2人以上(平成15年8月より) |
※ 弁護士法人だけは、従来から1人の弁護士が複数の弁護士を雇用 する形態が広くみられたため、例外的に一人法人が認められている。 |
専門性の高いいわゆる「士」業は、資格をもった特別な職業として、とかく独占的で消費者にはわかりにくく、利用しにくい営業が行なわれていたといわざるを得ません。
こうした分野にも競争を持ち込むことで、サービスを向上させ、ひいては価格の引き下げを行なえるようにと、近年、法改正が行なわれて、これら専門職の法人組織をつくることができるようになってきました。
いずれも、専門家が複数で法人組織をつくることにより、より専門化・分業化を進めることができたり、あるいは経済的な基盤も増して、大規模化により総合的なサービスの提供や全国的なサービスの提供も可能となるものです。現在は、同一の「士」業内部での法人しか認められていませんが、将来的には、複数の「士」業を横断する形での法人も認められる可能性があります。
ことば欄
- ☆即決和解
- 訴訟の中で和解するのではなく、訴訟を提起する前に、当事者双方が簡易裁判所に出向いて行う和解。起訴前の和解ともいう。和解が成立すると調書が作成され、この調書は確定判決と同一の効力を有する。
- ☆支払督促
- 一定の金銭や有価証券の給付を請求する際、債権者の申立てだけで、債務者を審尋せずに、直ちに裁判所がその支払を督促するもの。債務者が一定期間内に異議を申し立てれば手続きは通常訴訟に移行する。一方、異議申立てがなければ、その決定が確定判決と同一の効力を有することとなる。
- ☆証拠保全
- 訴訟の中で行われる正規の証拠調べまで待つことができない証拠について、あらかじめ証拠調べをしてその結果を保全しておくもの。訴訟提起の前後を問わず行える。たとえば、廃棄や改ざんのおそれのある文書の保全や重態の証人への尋問など。
- ☆民事保全
- 訴訟をして判決をもらうまでの間に、一方にとってあまりに不利な事態が発生・継続することを防ぐため、とりあえずとられる措置。1)権利の実現を保全するための仮差押え(支払請求する相手方がお金を使わないよう、仮にその財産を差し押さえるなど)、2)係争物についての仮処分(所有権を争う土地を勝手に処分できないようにするなど)、3)権利関係について仮の地位を定める仮処分(解雇の当否を争うとき、とりあえず従業員としての身分を認めるなど)がある。民事保全法により定められる(そよ風51号参照)。
- ☆民事調停
- 私人間の争いを、訴訟ではなく、調停委員という第三者が仲介することで、双方の互譲を得て、法的に妥当でしかも実情に即した、納得のいく解決・合意をはかろうという制度。一定の事件については、訴訟の前に調停が義務づけられていることもある(調停前置主義、たとえば家賃の増減など)。
- ☆強制執行
- 私の権利の実現を、各自が実力で勝手に行えば社会は混乱する。そこで、私の権利の実現を、国家権力(執行機関=執行官・執行裁判所)が代わって強制的に行うもの。この申立ての前提として、その権利の存在を確証するための文書=債務名義が必要とされる(たとえば確定判決など)。不動産の強制競売、動産執行、債権差押執行、明渡執行などさまざまな種類がある。


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