マンション老朽化時代を迎えて
これで安心?!建替え事業に法的レール
マンション建替え円滑化法の制定
平成14.12.18施行

老朽マンションの増加――建替えラッシュは近い?!



 現在、分譲マンションで暮らす人は約1000万人(400万戸)に達し、持ち家の一形態として今では広く定着しています。しかし、本格的に建設されだしたのは1970年代に入ってからと、マンション生活はまだまだ新しい居住形態です。
 実は、老朽化が原因でこれまでに建て替えられたマンションは、全国で約70戸しかありません(ちなみに、阪神大震災による被災が原因で建て替えられたマンションは110戸に及ぶ)。しかもいずれも、建設当時に比べて地価が高騰したうえ、以前よりも高層マンションを建てるなどして戸数を増やすことができ、結局、従来の住人はほとんど費用を負担することなく、前より広い住居を得るという、きわめて恵まれた形での建替えが実現できたケースでした(いわゆる等価交換方式)。このため住民の賛同も得やすく、建設会社・住宅販売会社が積極的に主導権をとって建替えが実現できました。
 しかしこれからは、こうしたことは望むべくもありません。地価は下落、建築基準はきびしくなり、民間マンションではすでに容積率いっぱいに建っている……これからの建替えには、住民の大きな負担は避けられないところです。しかも築後30年をこえるマンション(当然、住民も高齢化している)が、これからつぎつぎに、老朽化と大修理・建替えという大問題に直面することになります。
 そのため、近年、相次いでマンション関係の法律が制定・改正されました。平成13年8月には「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」が施行され、第1回のマンション管理士(国家資格)試験が同年12月に実施、管理についてアドバイスをする専門家も誕生しました。そして、平成14年12月18日には「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」が施行され、マンションの建替えに初めて法的なレールが敷かれました。

建替え決議後の煩雑な事業手続きを初めて法的に整理

 マンションの建替えについては、これまでも、「建物の区分所有等に関する法律区分所有法)」の中で、建替え決議については定められていました(後述)。
 しかし、膨大な苦労の末にたとえ決議がなされても、その後の現実の建替事業という手続きが実際にどう進んでいくのかは、まったく何も定められていないのが実情でした。
 多くの区分所有者がいれば、当然、事情も千差万別です。住宅ローンをまだ何年も抱えている人、住宅に抵当権などを設定している人、他人に貸している人、相続で争っている人、なかには、差押えや破産手続きを受けている人もあり、現状の建物にはこうした複雑な権利関係が絡み合っています。この建物が、一旦撤去されてしまうわけですから、債権者等の同意をどうとりつけ、これらの権利をどう整理するかが大問題となります。また、契約一つをするにも、個々の区分所有者と結ぶ必要があり、その煩雑さには気が遠くなるばかりです。阪神大震災後のマンション再建でこうした問題が明らかとなり、今回の新法制定に至ったものです。

マンション建替組合を設立し一括して契約・登記


 まず、建替え決議の内容を実現するために、「マンション建替組合」を設立することができるようになりました(円滑化法5条1項)。この建替組合には法人格が与えられ(同法6条)、個々の区分所有者に代わって、一括して交渉・契約・登記をすることができるようになります。
 定款・事業計画を決めて、建替え合意者の4分の3以上の同意を得れば、都道府県知事の認可を受けて設立されます(同法7〜13条。ただし5戸以上のマンションに限る、同規則9・10条)。建替えに合意した者はすべてこの建替組合の組合員となりますが、そのほかにも、建設会社や管理会社など、民間事業者や専門知識をもつ者を参加組合員とすることも認められています(同法16・17条)。
 建替えに参加しない人に対しては、建替組合設立の認可が公告された日から2ヶ月以内に、その人がもつ区分所有権・敷地利用権を、時価で売り渡すように請求することとなり、不参加者はこれを拒むことはできません(同法15条)。
 この建替組合のほかに、マンションの区分所有者の同意を得た人(民間事業者等)が、1人あるいは複数で個人として建替事業を施行することも当然できますが、その際にも、規約(規準)・事業計画について、都道府県知事の認可を受けることが必要となります(個人施行者。同法5条2項、45〜48条)。

マンションの複雑な権利関係を、そのまま新しい建物に移行する

 そして、現状のマンションについていた権利関係は、すべて一括して、新しく建設されるマンションに移行される措置がとられることになります(権利変換手続、同法55〜78条)。これは、従来、都市再開発法に基づく市街地再開発事業の際に用いられていた手法をそのまま導入したものです。
 施行者(建替組合・個人施行者)は、権利変換手続きを開始する旨の登記を行い、それ以降は、勝手な売買など、施行者の承認を得ないで権利を処分することは禁止されます。
 一方、施行者は具体的な権利変換計画を定めて、都道府県知事の認可を受けなければなりません。建替組合の場合は、組合員の5分の4以上の賛成が必要です。この権利変換計画に賛成しない組合員については、議決から2ヶ月以内に、区分所有権・敷地利用権を時価で売り渡すことを請求できるほか、反対に、不賛成の組合員の側からも時価で買い取るように建替組合に請求することができます(同法64条)。
 こうして、整理をしたうえで、現状のマンションにある権利(所有権・借家権・担保権等)は、基本的にすべて、新たに建設されるマンションにそのまま移行することとなります。工事が完成した後の登記も、建替組合・個人施行者が一括して行います(同法82条)。

危険・有害なマンションには市町村長が建替えを勧告する

 この手続きに参加しない区分所有者、あるいはこれを機に転居する借家人に対しては、多数決で決まったこととはいえ、そこに住む権利を奪うという大きな影響を与えるわけです。そこで、施行者も、国や地方公共団体も、転居先を確保するために必要な努力をすることが義務づけられました(同法90条)。
 さらにこの新法では、建替え決議とは別に、危険・有害なマンションについては、積極的に建替えを促す制度もつくられました。たとえ建替えの話し合いが進まなくとも、現実に、保安上危険または衛生上有害だと認められるマンションについては、市町村長が、建て替えるべきことを勧告できるとしたものです(同法5章。具体的な認定は一定の基準にしたがって点数で判定される、同規則42・43条)。このときにも、借家人や転出者の住宅確保のために、公共賃貸住宅への優先入居と家賃減額、移転料の補助など、さまざまな配慮がなされることとなっています。


区分所有法の改正
「建替え決議」も大きく変更
平成14.12.11公布
平成15年夏にも施行予定

建替え決議の要件緩和―― 5分の4の賛成だけでOK


 ちなみに、「建物の区分所有等に関する法律区分所有法)」も改正され、平成14年12月11日に公布されて6ヶ月以内の施行が予定されています。
 このなかで、「建替え決議」をめぐっても、大きな改正が行われることとなります(区分所有法62条)。
 まず第1に、建替え決議は、区分所有者の総会で5分の4以上の賛成があれば決定できることとなりました。従来は、老朽化等が進んで建物の維持・修理に過分の費用がいるときに限り、5分の4の多数決で建替え決議ができるとしていましたが、この制限が廃止されたものです。建替えに反対する少数者の居住権を守るために置かれていた規定ですが、何が過分の費用かをめぐり、これまでも建替え決議の無効が数多く争われてきました。
 第2に、建替えの際の敷地・使用目的についての規制も大幅に緩和されました。従来は、同一の敷地・同一の使用目的と限定されていたものを、敷地の一部さえ同一ならあとは問わないとしたものです。これにより、現在の敷地の一部を売ったり、新たに隣りの土地を買って敷地を広げることもできるようになり、また、居住用のみのマンションを、下層階を店舗部分とした新たなマンションに建て直すことも可能となります。

建替え決議には、事前の周到な準備を義務づけ

 しかし、マンションの建替えは、当然ながら、区分所有者の十分な納得のうえで行われる必要があります。そこで、建替え決議を行うための総会は、2ヶ月(従来は1週間)以上前に通知を出すこととしました。
 さらに、建替え決議では、(1)設計図を含めた設計の概要、(2)建替え費用の概算、(3)費用分担、(4)区分所有権の帰属について定めなければなりませんが、通知の際には、これらの議案の要領のほかに、建替えの要否を検討するための資料として、(a)建替えを必要とする理由、(b)建替えをしない場合の維持・修理費用額、(c)修繕計画がある場合はその内容、(d)修繕積立金額についても、同時に配付が義務づけられることとなります。
 そして、当該総会の1ヶ月前までに、区分所有者に対して説明会を開くことも義務づけられるなど、十分な情報を得たうえで、さらに十分に検討する機会ももったうえで、各自が判断できるように改正が行われています。

「団地」の建替え決議も新たに整備

 さらに、数棟の建物がある「団地」の建替え決議についても、新たに規定がもうけられました(同法69・70条)。
 団地の中の特定の棟だけを建て替える場合には、当該棟については区分所有者の5分の4の賛成が、そして団地全体の4分の3の賛成が必要とされます。一方、団地全体を一括して建て替えることもできるようになり、この場合には、団地全体の区分所有者の5分の4の賛成で、しかも各棟も3分の2以上賛成していることが要件となります。


大規模修繕は過半数の賛成で決定OK


 こうした建替え決議についての改正のほかに、区分所有法は次のような点が改正されることとなります。

(1) 大規模修繕も過半数で決定が可能(同法17条)
 これまでは、共用部分の変更のうち多額の費用がかかるものは4分の3以上の賛成が必要とされてきました。改正により、形状・効用の著しい変更を伴わないものについては過半数の賛成でいいとしたもので、外壁や屋上防水等の大規模な修繕も普通決議でできることとなりました。
(2) 当初規約の適正化(同法30条3項)
 新築の分譲マンションを購入するときには、業者によるお仕着せの管理規約がもうけられており、それを実質無批判に受け入れるしかありません。しかし場合によっては、その内容が業者や元の土地所有者に極端に有利になっている事例もあり、トラブルのもととなっていました。そこで、規約は、事情を総合的に考慮し、区分所有者間の利害の衡平が図られたものとすることが盛り込まれました。
(3) 管理組合の法人化と権利の拡大(同法47条1項、26条4項)
 管理組合を法人とするためには30人以上区分所有者が必要とされていた人数制限が撤廃されました。また、マンション欠陥訴訟などでは、これまでは管理組合が当事者となることはできず、個々の所有者が原告となっていましたが、共用部分について生じた損害賠償を管理組合が代理して行えることとしました。
(4) 規約・議事録・集会・決議の電子化(同法30条5項、42条1項、39条3項)
 書面によるだけでなく、規約・議事録をフロッピーなど電磁的記録で作成することや、電子メールなどで議決権を行使することができることとしました。

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 以上、主にマンションの建替えについて解説しましたが、紙面の都合で、法律のほんの概要しかふれていません。
 一戸建ての家を建て替えるのでさえ大仕事です。まして、さまざまな事情や考え方の人びとが寄り集まるマンションの建替えともなれば、決議に至る過程はもちろん、その後の手続きも難問山積で、ずぶの素人だけで実現するのはほとんど不可能といえましょう。国や地方公共団体も、このマンション建替え問題に対しては、必要な施策・助力をすることが義務づけられています。具体的な建替えには、これら自治体や設計事務所・建設会社・デベロッパーといった、専門知識をもった人や組織との相談・協力体制が不可欠であり、こうした体制の整備も急がれるところです。




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