
危険な運転が引き起こす死傷事故
新たな罪を新設し、きびしく罰する!!
刑法・刑事訴訟法の改正
〜平成13年12月25日より施行〜

私たちは車が凶器であることを忘れてしまいがちです。しかし、私たちの生活に車が欠かせないものになるにつれて、「交通事故」という犯罪が増加し続けていることを深刻な問題として自覚しなければなりません。
平成12年における刑法犯の件数は戦後最高の325万6109件で、罪名別にみると、窃盗が213万1164件(約65%)と最も多く、次に、交通事故による死傷事犯が81万2639件と全体の約25%を占めています。とくに、飲酒運転やスピード違反などの悪質かつ危険な運転行為による死傷事犯が多発していることは重大な問題です。
これまでは、車を運転していて人を死亡させる、あるいは人に傷害を負わせることは、刑法の業務上過失致死傷罪(211条1項)が適用され、「5年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」に処せられました。これは、殺人罪(死刑・無期または3年以上の懲役、199条)や傷害罪(10年以下の懲役または30万円以下の罰金・科料、204条)など、故意でなされる犯罪にくらべて、非常に軽いものとなっています。このため、たとえば、酒酔い運転で死亡事故を起こした場合でも、従来は、道路交通法違反(酒酔い運転)と業務上過失致死罪の併合罪で、最高懲役7年にしかなりませんでした(「併合罪」についてはことば欄参照)。
しかし、飲酒運転などの危険な運転で人の命を奪った者がただの過失として刑が軽くなるというのは、遺族には納得のいかないものであり、早急な法整備が求められました。
そこで、危険な運転による交通事故にはきびしくのぞむため、「刑法」が改正され、新たに「危険運転致死傷罪」が設けられました(208条の2)。
危険運転致死傷罪が適用されるのは、四輪以上の車を運転するドライバーが、危険性が極めて高い、次の4つの運転行為で死傷事故を起こした場合です。
- (1) アルコールや薬物(麻薬・睡眠薬など)の影響で正常な運転ができない状態で運転
- (2) ハンドル操作などを誤るようなスピードの出しすぎ、または無免許運転などの未熟な運転
- (3) 人や車の通行を妨害しようとする目的で、割り込み・幅寄せ・あおり行為など異常な接近をする運転
- (4) 赤信号などを完全に無視した運転
(3)のケースでは、割り込み等をされた車が回避するために他車などと事故を起こした場合にも、当然、異常な接近をした者がこの罪で罰せられることとなります。
こうした運転で、人を死亡させた場合には「1年以上15年以下の懲役」、人を負傷させた場合には「10年以下の懲役」に処せられます。その危険性の大きさを考慮して、罰金刑の適用はありません。
なお、これ以外の自動車事故については、これまでどおり、業務上過失致死傷罪が適用されます。
一方、軽微な自動車事故については、刑事罰を免除する規定も、新たに設けられました。
窃盗や詐欺などといった刑事事件では、被害額が軽微なときには、一般的に被害届も出されないケースが多くみられます。これに対して、交通事故では、保険金の受給手続きや申告する義務があるため、程度にかかわらず、ほとんどの事故が警察に届出られます。このため、明らかに刑の言渡しを要しない軽微なケースまでが事件となっています。
そこで今回の改正で、自動車事故に限り、傷害の程度が軽いときには、その情状(過失の程度・内容等)を考慮して、刑を免除できると明記しました(211条2項)。これにより、軽微なケースでは捜査書類を簡略化するなど効率化をはかり、真に捜査が必要な事件に力を入れることができることとなります。
交通事故・違反を起こした者の9割以上は、罰金刑に処せられることになります。ところが、この罰金刑の執行に関しては、徴収未済が増加しています。
しかし、自動車事故・違反を減らすためにも、罰金刑を確実に執行することは不可欠といえましょう。
今回の改正では、「刑事訴訟法」も同時に改正され、検察官・裁判所・裁判官が、裁判の執行に関して必要があると認めるときは、警察や地方公共団体・法務局・金融機関・電話会社などに必要な事項を照会することができるとする規定を新たに設けました(507条)。照会に対する報告を拒否しても、刑罰などの直接的な制裁はありません。しかし、この照会に対する回答を得ることによって、犯人の所在や資産などを調べることが容易となり、罰金の確実な徴収の実現が期待されています。
<ことば欄>
- ☆併合罪
- 1つの行為が複数の罪にあたる場合や、関連した一連の行為でなされた罪(たとえば不法侵入と窃盗)などは、併合罪として同時に刑を定めて執行する。
刑法では、複数の有期の懲役・禁錮に相当する罪については、原則として、最も重い罪について定められた刑に、一定の加重をして刑が執行されることとなる。加重の程度は、重いほうの刑の長さの1.5倍が限度とされる。ただし、1.5倍した長さがそれぞれの刑の最長を合計した期間を上回ることはできない(47条・48条2項)。
死刑または無期懲役・禁錮の場合には、その刑のみが執行され、ケースによっては、罰金・科料や没収が併科されることもある(46条)。さらに例外的に、懲役と罰金刑が併科されることもある(48条1項・49条)。
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