☆ ☆ 年金問題 ☆ ☆

リスク覚悟で大きく狙う? or 手 堅 く い く?
自分で選ぶ!運用次第で給付金に格差
確定拠出年金法の制定
平成13年10月1日施行

国民年金や厚生年金といった公的年金は、あらかじめ給付額が約束されています(確定給付年金)。このため、老後の生活設計も立てやすく、いわば安心の年金といえましょう。しかしその一方、少子化が急速に進んだり、経済活動が停滞したりと、思わぬ事態が起こると、これに対応するため、保険料を上げたり給付開始年齢を引き上げたりと対処する必要に迫られます(「そよ風」115号参照)。
これは企業年金も同じです。厚生年金保険料の一部を企業が運営して独自の上乗せ給付をする「厚生年金基金」や、退職金の一部を保険会社や信託銀行に運営させて年金の形で給付する「適格退職年金」などがこれにあたります。いずれも、その多くは年4〜5%での運用を見込んで給付計画を立てていましたが、昨今の不景気で現実の運用益はマイナス10%近くに落ち込んでいます。企業は、当然、その分の穴埋めをしなければならず、企業や業界によっては、もはや負担しきれずに、いくつもの厚生年金基金がつぶれる事態も起きています。
そこで新たに登場したのが、「確定拠出年金」です。
これは、拠出金=保険料は事前に決まっているものの、個人が自分で運用して自分の責任で収益をあげるため、給付額がいくらになるかは各人によって異なるものです。うまく運用して多額の給付を受ける人もいれば、逆に、掛け金を割り込む可能性もあり、すべて自己責任で決していくことになります。
このため、企業年金のように、企業が運用損を穴埋めする必要は一切ありません。一方、労働者にとっても、各人の分を個別に管理するので、転職や独立の際にもこの年金を引き継ぐことが可能で、従来の企業年金のように、長期間にわたって同一の会社に勤めないかぎり給付がもらえず掛け損になるようなことはありません。
この確定拠出年金は、米内国歳入法401条k項の規定を参考にしてつくられたため、「日本版401k(ヨンマルイチケー)」とも呼ばれています。
タイプは2つ 掛金を |
企業が払う「企業型」と |
自分で払う「個人型」
|
確定拠出年金は、大別して2つのタイプがあります。
1つは「企業型年金」で、サラリーマンを対象に、企業が掛金を支払うものです。企業は、労働者の過半数を組織する労働組合、それがなければ労働者の過半数を代表する者の同意を得て規約を作成し、厚生労働大臣の承認を得て、導入することができます(法3条)。
もう1つは「個人型年金」で、対象となるのは、自営業者など(国民年金の第1号被保険者)と、サラリーマンのうち、企業年金(厚生年金基金・退職年<金等)も企業型確定拠出年金もない企業で働く者です(法62条)。掛金は加入者本人が支払い、各種の金融機関を通じて、国民年金基金連合会に申し込みます。
いずれも公的年金ではありませんので、加入は自由です(企業型年金は企業・企業グループごとに決定する)。ただし、国家・地方公務員とサラリーマンの妻(国民年金の第3号被保険者)は加入できません。また、国民年金の保険料を減免されている者や支払っていない者も加入できません。
公的年金制度を補完するために導入されたため、確定拠出年金には、さまざまな税制上の優遇措置がとられています(法86条)。
まず、掛金は一切課税されません。企業型年金では損金算入され、個人型年金では所得控除の対象となります。また、当面、運用収益も非課税です。たとえば、通常の預貯金なら利子の20%が税金として差し引かれますが、確定拠出年金では長期にわたる複利運用が可能です。給付に際しては、一時金として受け取るなら退職所得控除の対象となり、年金で受け取る場合には公的年金等控除の対象となります。
こうした優遇措置の対象となるため、確定拠出年金の掛金には上限が設けられています(法20・69条、施行令11・36条)。
- (1)「企業型年金」で、他に企業年金制度もある場合
- 月額1万8000円
- (2)「企業型年金」で、他に企業年金はない場合
- 月額3万6000円
- (3)「個人型年金」で、自営業者等(第1号被保険者)
- 月額6万8000円
- (4)「個人型年金」で、サラリーマン(企業年金も企業型確定拠出年金もない)
- 月額1万5000円
このうち、(3)については、国民年金基金(「そよ風」54号参照)にも加入している場合は、その掛金との合計が上限額以下でなければなりません。
ちなみに、民間の保険会社などに個人で加入する年金保険の場合、所得控除が認められるのは年間5万円までです。
給付の種類は、「老齢給付金」「障害給付金」「死亡一時金」があります。
老齢給付金は、60歳になれば受給することができます。しかし、途中で引き出すことは、一切認められていません。転職や独立の際に、企業型年金から個人型年金へ、あるいは次の企業型年金へなど、自由に引き継げる代わりに、途中で解約はできないのです。
ただ、結婚退職してサラリーマンの妻(第3号被保険者)になったり、サラリーマンから公務員になるなど、確定拠出年金に続けて入ることができない場合に限り、一時金を受け取ることが可能です(法附則3条)。これも、加入期間が3年未満に限ります。3年以上の加入期間があれば、あとは運用の指示を続けることになり、やはり60歳になって給付を受けることとなります。
各人が自己責任で運用するためには、何より情報が大切です。
各人の記録を管理し、指示どおりに適切に投資すること、また、各人が運用先を決定するために不可欠な十分な投資情報を届けること等々、こうした業務を、契約した「運営管理機関」が担当します(法6章)。すでに多くの銀行・信託銀行・証券会社・保険会社が独自の会社を設立するなど、この分野に乗り出しています。
加入者は、どこにでも、何にでも、投資できるわけではありません。運営管理機関が提示する運用商品の中から、自由に選ぶこととなります。運用先を途中で変えることも、もちろん可能です。運用商品は、タイプが異なるものを最低3つ以上提示することが義務づけられており、そのうち少なくとも1つは元本が保証されるものでなければなりません(法23・73条)。運営管理機関は、運用実績をみながら、これらの商品を入れ換えていくこととなります。
企業には、社員に十分な説明と投資教育を施すことが義務づけられています(法22条)。厚生労働省が示す実務指針においては、自社株や自社債を運用商品に加えてもいいがそれを推奨することは禁止されました。また、運用商品については過去10年間の運用実績を示し、さらに少なくとも3ヶ月ごとにそれを更新することが義務づけられています。
ペイオフが解禁され、普通預金の利息が0.001%という超々低金利の時代に、確定拠出年金は困難な船出となりました(「ペイオフの解禁」についてはことば欄参照)。企業や投資の専門家が運用益をあげるのに苦渋している時代に、投資に不慣れな国民が自己責任で老後の資金を運用しなければならない──「企業型年金」はすでに平成13年10月から開始され、「個人型年金」についても平成14年1月から募集が始まりました。しかし、今のところ、加入企業も個人の加入者も、まだまだわずかでしかありません。
アメリカ経済の好景気を支えたといわれる個人投資家を育てた401kと同様に、この確定拠出年金が日本経済の救世主になるかどうか、将来にわたって年金の主流となるのかどうか、多難な道のりとなりそうです。
最後に、国民年金基金と異なり、個人型確定拠出年金に加入するためには、同連合会に加入金2000円、運営事務費月額100円、さらに運営管理にあたる金融機関に年間5000円程度の出費が必要となります(企業型年金の場合は、企業がこれらの運営管理費を負担する場合がある)。さらに、投資信託などを行う際には、各手続きごとに手数料や報酬が必要となることがありますので、必要経費もご確認ください。
<ことば欄>
☆ペイオフの解禁
金融機関の破綻による混乱を防ぐため、預金保険機構は預金者にその預金を払い戻す(預金保険法、昭和46年制定)。その際、保証する上限額が定められており、それ以上の支払いは保証されない。これをペイオフという。
この上限額は、1金融機関ごとに預金者1人当たり1000万円とその利息となっている(法54条1項、施行令7条)。しかし、平成8年6月以降、預金の全額を保護するという特例措置がとられ、この条文は凍結されていた。この措置がこのたび解禁され、平成14年4月1日からは、定期預金や元本保証契約をした金銭信託などに、さらに平成15年4月1日からは普通・当座・別段預金についても適用されることとなった。
ちなみに、確定拠出年金の積立金の運用についても、預金保険制度の対象となる商品であれば、合計1000万円とその利息は保護される。その際、保険金はすぐに手元に戻るのではなく、そのまま積立金とされ、将来年金として受け取ることになる。


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