
社会が支える安定した老後
高齢化社会を迎えて緊急の課題
負担と給付の調整をはかる
年金問題★国民年金法等の改正★

私たちの老後の生活設計にとって、年金は欠かせない存在です。現に公的年金は、高齢者世帯の所得の6割以上を占める大切な柱となっています。しかし、深刻な少子化・高齢化と長期にわたる景気低迷の中で、この制度への不安や不満が広がっています。安心と信頼の年金制度をめざし、近年、さまざまな法改正が行なわれてきました。
わが国では、国民皆年金といって、1961年以来、原則として20〜59歳の国民のすべてに加入が義務づけられています。
この公的年金は2階建て構造になっていて、一階部分の「国民年金(基礎年金)」には全員が加入し、その数約7000万人に達します。さらにその上に2階部分として、民間サラリーマンは「厚生年金」(約3300万人)への、公務員等は「共済年金」(約500万人)への加入が義務づけられます。
そして加入者が支払う保険料は、それが積み立てられて各人の老後に給付されるのではなく、今の高齢者への給付に当てられるという、世代間扶養の仕組みになっています。
このため、少子化により現役世代が減る一方、寿命の伸びとともに高齢者人口が増大する時代を迎えると、現役世代には保険料の負担増を、高齢者には給付減を求めなければ、制度そのものの存続が危ぶまれています。
そこで、わが国より早く高齢化社会を迎えたヨーロッパ諸国を参考にして、厚生年金の保険料は年収のだいたい20%(月収で約26%、労使折半)を限度におさえ、国民年金の保険料も最終的に1万8000円くらいでおさえられるように、給付総額の抑制がはかられました。
- ◎老齢厚生年金額の切下げ
- まず、基礎年金に加算される厚生年金(報酬比例部分)の給付水準を5%切り下げることになりました。具体的には、老齢厚生年金は右式で計算されますが、この乗率が1000分の7.125に引き下げられました(平成12年4月1日より施行)。夫婦2人分の基礎年金と合わせて、給付額は、現役世代の手取り年収のおおむね6割の水準が見込まれています(夫厚生年金加入・妻専業主婦のモデルケースで月額約23万8000円を想定)。
- また、従来、基礎年金の額は物価を勘案して政策決定し、厚生年金では手取り賃金の伸びに応じてその引き上げを行なってきました。平成12年4月からは、物価スライド制のみを採用し、賃金スライド制は廃止されました。
- ◎老齢厚生年金の支給開始年齢のさらなる引上げ
- さらに、平成13年4月から、老齢厚生年金の支給開始年齢が徐々に引き上げられています。もともと基礎年金は、満65歳からの支給です。しかし、厚生年金は、定年後の無収入の時期をなくすために、従来は、満60歳になれば、「特別支給の老齢厚生年金」が、65歳になって受け取る額と同額給付されてきました。このうち、定額部分(基礎年金と同額部分)の支給開始年齢を3年ごとに1歳ずつ引き上げる措置が始まったものです。そして新たに、平成25年度からは、報酬比例部分についても支給開始年齢を徐々に引き上げる措置がとられ、最終的に、特別支給の老齢厚生年金そのものを廃止することとなりました(右図)。これにより、昭和36年4月2日以降に生まれた男性、昭和41年4月2日以降に生まれた女性については、公的年金はすべて満65歳からの支給となります。
- なお、国民年金の繰り上げ支給と同様に、65歳までに早めに繰り上げ支給を受けることもできます。1ヶ月単位での繰り上げが可能ですが、1年繰り上げると給付額は6%削減されます。つまり、最大5年の繰り上げ支給を申請すると、30%削減された支給額が生涯最後まで給付されることになり、これは途中で変更することはできませんからご注意ください。
- ◎65〜9歳の在職者には老齢厚生年金の一部支給停止
- いまや、「65歳現役社会」がめざされています。そしてこの4月からは、65〜69歳の高齢者についても、賃金収入があるなら年金制度を支える側として保険料を負担し、一方、老齢厚生年金については賃金の額に応じて一部の支給が停止されることとなりました(在職老齢年金)。賃金と厚生年金(報酬比例部分)の合計額が37万円を超えると、比例して支給が削減される仕組みです。そして賃金が47万円以上の場合は、全額支給停止となります。ただし、基礎年金部分(40年加入のモデルケースで、月額約6万700円、夫婦2人で約13万4000円)については、全額支給されます。
このほか、負担の適正化をはかるための措置がさまざまにとられています。
- ◎学生には特例期間で保険料を猶予
- まず、学生の保険料は特別扱いされます。20歳をすぎれば加入が義務づけられていますが、学生で、本人の収入が年133万円以下なら、申請によって、納付を必要としない「学生特例期間」が設けられました(平成12年4月より)。この手続きは1年ごとに申請する必要があります。期間中の保険料については、10年以内なら追納することが可能です(2年までは無利子)。追納しない場合は、この学生特例期間は、年金の加入期間(年金受給には最低25年の加入が必要)には組み入れられますが、年金支給額はその分減額されることになります。この制度の創設によって、交通事故などで学生が障害を負った場合にも、障害基礎年金が支給されるようになりました。
- ◎育児休業中は全額免除
- 次に、少子化に少しでも歯止めをかけるためにも、育児休業中の保険料は全額免除されることになりました。平成7年4月からは被保険者負担分のみ免除でしたが、平成12年4月から、事業主負担分についても免除されています。
- ◎国民年金保険料に半額免除制度を導入
- そして、この4月からは、国民年金の保険料に、半額免除の制度が新たに設けられました。国民年金(基礎年金)のみの加入者のうち、実に3分の1が、現在、未納・未加入・免除等で、実際の保険料を支払っていません。保険料は、今のところ、1人あたり月額1万3300円ですが、所得によって全額免除の制度があるだけでした。納付率を少しでも高めるために、半額免除という新制度を導入したものです。自営業者の標準世帯(夫婦と子供2人)なら、年間所得159万円以下が全額免除に、290万円以下が半額免除の対象となります。いずれも申請手続きが必要です。老齢基礎年金額を算定するときには、全額免除の期間は通常の3分の1として算入され、半額免除の期間は3分の2として算入されることになります。
- ◎厚生年金保険料はボーナスを含めた総報酬制に
- さらに、平成15年4月からは、厚生年金の保険料は、年間の総報酬制がとられることになりました。これまでは月収をベースに徴収され(17.35%、労使折半)、ボーナス等については1%徴収するにとどまっていました。これでは、ボーナスが低い労働者ほど実質の負担が重くなります。そこで、ボーナスも含めた年間総賃金をもとに、13.58%の保険料(労使折半)を負担することとします。これにともなって、老齢厚生年金の計算も、従来の標準報酬月額に基づく式(一頁下記載)ではなく、平均標準報酬額(標準報酬月額及び標準賞与額の総額を加入期間の月数で割った金額)をもとに、上の式で計算されることになりました。
- ◎国民年金の財源は2分の1を国庫負担に
- また、平成16年までの間に、国民年金(基礎年金)の財源に占める国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げることが目標とされています。その財源として、消費税をこれに充てるなどが現在検討されています。
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公的年金をめぐっては、さらに2年後に、専業主婦やパート労働の保険料負担を中心に、女性の年金制度の改正が見込まれています。
今号では、国民年金・厚生年金等の公的年金の改正について説明しました。次号では、これに上乗せするものとして、新たに導入された確定拠出年金を取り上げる予定です。


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