<「雇用保険法」は、平成15年5月1日よりさらに改正され、給付日数等が変更されています。くわしくは「そよ風」123号をご覧ください。>


空前の失業に雇用保険パンク!
2001年(平成13年)4月から
失業給付は一変しました
離職理由で給付日数に格差
◎雇用保険法の改正平成13年4月1日施行◎


深刻な失業――雇用保険の積立金ゼロに

 景気がいつまでも回復しないまま、倒産や大規模なリストラによって、2001年(平成13年)10月の完全失業率は5.4%と過去最悪を記録するなど深刻な事態が続いています。失業者の増大にともなって、雇用保険はここ数年、毎年1兆数千億円もの赤字です。
 バブル期には暫定的に徴収する保険料を引き下げても、なお5兆円(平成5年)もたまった積立金も、毎年切り崩されて、あっという間に底をつき、今や、雇用保険制度の大幅な見直しが緊急の課題となりました。
 そこで、2001年(平成13年)4月1日より、保険料をアップする一方、失業給付の仕組みを変更して、総額で2割強の削減がなされることとなりました。

雇用保険料の引上げ――負担増に

 まず、「労働保険の保険料の徴収に関する法律」を改正し、保険料をアップしました(12条4項、附則10条)。
 保険料は、平成4年度から暫定的な軽減措置がとられていました。これを廃止し、さらに平成13年4月からは、雇用保険料率を原則、賃金総額の1.55%に引き上げました。ただし、労働者負担分は0.6%で、事業主負担分が0.95%(失業等の給付に係る保険料が労使折半で0.6%、これに雇用安定等事業に係る保険料が0.35%加算される)です。月収約30万円の労働者の場合、月に約600円の負担増となっています。
 ところが現在、この値上げから1年もたたないうちに、緊急措置としてさらなる値上げが検討されています。厚生労働省の想定を越える失業率の悪化に、早くも財政難をきたしている状況です。

離職理由で失業手当に差――リストラ等のみ手厚く

 日本特有の雇用制度といわれた終身雇用制がくずれ、今や転職はあたりまえ、それどころか、昨今のリストラとあいまって、一生同じ会社で勤めあげるほうが珍しい時代となってきました。そこで、「雇用保険法」の改正では、近年の赤字財政を解消するために、失業手当を一律に引き下げる方法はとらず、失業手当の給付日数についての制度を変更することとしました。
 従来は、再就職の困難さを考慮して、失業した人の「年齢」と「保険に加入していた期間」に応じて、失業手当の給付日数が段階的に決められていました。やめた理由(解雇・定年あるいは自己都合かなど)にかかわらず、給付日数は同一です。ただ、自己都合による退職の場合には、支給開始を3ヶ月遅らせる措置がとられているだけです(法33条1項、「そよ風」75号表1参照)。
 2001年(平成13年)4月からは、「失業した理由」によって、失業手当の給付日数に大きな差がつきます(下表1・2)。

表1 一般の離職者の失業手当給付日数
(定年退職や自分の意思で離職した者など)
被保険者であった期間
  5年未満   5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
全年齢共通 90日
(90日)
120日
(90日)
150日
(120日)
180日
(150日)
表2 特定受給資格者の失業手当給付日数
(倒産・解雇等で、再就職の準備をする余裕もなく離職を余儀なくされた者)
被保険者であった期間
1年未満 1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
30歳未満 90日
(90日)
90日
(90日)
120日
(90日)
180日
(150日)
―――
30歳以上
45歳未満
90日
(90日)
90日
(90日)
180日
(150日)
210日
(180日)
240日
(210日)
45歳以上
60歳未満
90日
(90日)
180日
(180日)
240日
(210日)
270日
(240日)
330日
(300日)
60歳以上
65歳未満
90日
(90日)
150日
(150日)
180日
(150日)
210日
(180日)
240日
(210日)
※ 表1・2とも、( )内は短時間労働被保険者[1週間の労働時間が通常労
  働者より短くしかも30時間未満の者]の場合
 障害者等の就職困難者については、被保険者期間が1年未満であれば
  すべて150日、1年以上であれば45歳未満300日(240日)、45〜65歳未
  満360日(270日)となる。
 まず、失業が、会社の倒産や解雇などの理由なら、表2のように、再就職が困難な中高年齢者には、最高330日という手厚い措置がとられます(特定受給資格者、法23条)。
 これに対して、それ以外で失業した場合には、たとえば、定年・自己都合退職・重責解雇などの理由なら、年齢によって給付日数に差はなく、保険に加入していた期間のみで、表1のように給付日数が決まります(最高180日、法22条)。定年や自己都合などの理由による失業なら、あらかじめ次の就職先を準備することもできるだろうとの考えからとられた措置です。高齢者の中には、従来の制度にくらべて、180日分もの給付日数が削減されるケースもあります。
 なお、支給開始時期は従来どおりで、自己都合による退職では支給開始が3ヶ月遅れますが、定年の場合はすぐに給付されます。

離職理由はくわしくチェック

 失業の理由が失業手当の給付日数を大きく左右することになれば、当然、どのような事情なら表2の特定受給者に該当するのか、また、その事情は正しく判断されるのかが深刻な問題となります。
 そこで、「雇用保険法施行規則」の中に、表3のような基準が定められました(33〜35条)。

表3 特定受給資格者に該当する事情

〔倒産等による離職〕

  1.  倒産(各種の倒産手続きの申立あるいは手形取引の停止)による離職
  2.  大規模なリストラでやめた者や事業所の3分の1を超える労働者がやめたので離職した者
  3.  事業所の廃止による離職
  4.  事業所が移転し通勤が困難となった者(往復4時間が目安)


〔解雇等による離職〕

  1.  解雇者(懲戒免職など重責解雇をのぞく)
  2.  採用時に示された条件と実際の労働条件が著しくちがうため離職
  3.  2ヶ月以上にわたり、賃金の3分の1を超える額が遅配したため離職
  4.  賃金カット(予期しえないもの)が15%を超えるため離職
  5.  45時間を超える残業が3ヶ月以上続いたり、危険・不健康だと行政に指導されても改善しないため離職
  6.  職種転換等が一方的に行なわれ、仕事が続けられなくなったためやむをえず離職
  7.  1年以内の短期契約を更新しつづけて3年以上たった時点で更新されないとき
  8.  上司・同僚からのいじめ・嫌がらせやセクハラなどで退職
  9.  事業主からの直接的・間接的な退職勧奨による退職(以前からある早期退職優遇制度に応じた場合は該当しないが、ここ1年以内に人員整理のために導入された募集期間3ヶ月以内の同制度なら該当する)
  10.  3ヶ月以上休業が続いたため退職
  11.  業務内容が法令に違反したため退職

 “倒産”には、事業所の移転により通勤困難となった者も含まれます。また“解雇”についても、一定の賃金カットや給料の遅配、嫌がらせやセクハラ等々、広い範囲の理由が含まれることとなりました。
 とはいえ、仕事をやめた理由については、事業主と労働者の間で、大きなちがいがあることも少なくありません。そのため、いわゆる「離職票」の様式を変更し、離職理由を20項目以上に分けてくわしくチェックすることとしました(規則、様式5・6号)。しかも、労働者も自らこの欄に記載することになり、事業主の書いた理由に異議があるかどうかが尋ねられます。異議があるときは、その主張を裏付けるものを提出するなどして、原則として4週間以内に職安が判断することになります。

派遣労働者・パートタイマーへの適用が緩和

 また、再就職手当の給付額も変更されました。これは、失業手当を受けている途中で、早く安定した職場に就職できた人に給付されるものです。対象となるのは、失業手当の給付日数がまだ3分の1以上(しかも45日以上)残っている時点で再就職したときです。
 給付額は、以前は失業手当の残日数などに応じて段階的に定められていましたが、平成13年4月より、一律に、残日数の3分の1相当額が支給されることとなりました(規則82条の3)。
 さらに、登録型の派遣労働者とパートタイマーについて、雇用保険の適用の条件がいずれも緩和されました。まず登録型派遣労働者については、年収や1ヶ月の労働日数についての制限が廃止され、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、同一の派遣元と1年以上にわたり雇用契約さえ結んでいれば、派遣先が変わっても雇用保険は適用されます。パートタイマーについても、同じく年収による制限が廃止され、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、反復継続して1年以上雇用される見込みなら、雇用保険が適用されることとなりました。

育児休業・介護休業への給付金が大幅アップ

 なお、2001年(平成13年)1月1日より、育児休業と介護休業についての給付率がいずれも引き上げられています。
 育児休業については、休業期間中に給付される基本給付金が、休業前賃金の30%(従来は20%)に、復職後に支払われる職場復帰給付金10%(同5%)となりました(法61条の4・同条の5)。介護休業期間中に支払われる給付金も、休業前賃金の40%(従来は25%)とアップされています(法61条の7)。これにより、育児休業・介護休業がさらに取りやすくなったわけです。
 また、教育訓練給付金の上限も、平成13年1月より引き上げられています。これは、保険加入期間5年以上の労働者が、厚生労働大臣が指定する教育訓練講座を受講したときに、受講費用の8割を支給される制度です(法60条の2)。この支給額の上限が30万円(従来は20万円)に引き上げられました(規則101条の2の5)。ご自分の技能アップをめざされる方は、是非ご活用ください。
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 ところで、あなたは雇用保険に加入していますか?
 阪神淡路大震災のときには、失業してはじめて雇用保険に未加入だと気づき、十分な給付が受けられないケースが多数発生しました。とりあえず、保険料は最大2年までさかのぼって支払うことが可能です。とはいえ、保険料をきちんと収めていなければ、実際に働いた期間に見合った失業手当が受けられないなど、未加入だった労働者にとってたいへん不利なことになります。
 事業主には、労働者を雇った以上、雇用保険加入の法的な責任と義務があります。雇用保険に加入していれば、お手元に「雇用保険被保険者証」があるはずです(事業主を通じて交付)。もしお持ちでないなら、事業主・職業安定所ですぐに加入の有無を確かめましょう。そしてただちに手続きをとってもらうことです。




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