<DV防止法は,住居退去期間が2ヶ月に延長されるなど,平成16年12月2日から大きく改正されています(くわしくはそよ風133号)。また,さらに平成20年1月11日からはさらに改正が行われ,保護命令制度が一層拡充されました(くわしくはそよ風151号)。>


配偶者の暴力を許さない!
DVドメスティックバイオレンス防止法制定
裁判所の保護命令接近禁止6ヶ月・住居退去2週間
平成13年10月13日スタート


社会不安と深刻化するDV被害

 ドメスティックバイオレンス=DVとよばれる、夫や恋人からの暴力による殺人・傷害事件は、平成12年1年間で1096件となっています(警察庁集計)。この数は、平成11年に比べほぼ倍増しており、長引く不景気とそれに伴うリストラなど社会不安・生活不安が、こうした事態を一層悪化させています。
 しかも、DVは、家庭内のこととして表に出ないケースがきわめて多いため、これらの数字も氷山のほんの一角をあらわしているにすぎません。

表1 男女間における暴力に関する調査(平成12年2月総理府)
命の危険を感じるくらいの暴行をうけたことがある 4.6%
医師の治療が必要となる程度の暴行をうけたことがある 4.0%
医師の治療が必要とならない程度の暴行をうけたことがある14.1%
あなたがいやがっているのに性的な行為を強要されたことがある17.7%

表2 配偶者間における刑法犯検挙件数のうち女性が被害者となった事件の割合(平成12年警察庁)
  暴 行   97.6%(127件中124件) 
  傷 害   94.4%(888件中838件) 
  殺 人   68.0%(197件中134件) 


 実際に、総理府(現内閣府)が平成12年に行った調査によると、女性の2割以上が、夫から何らかの暴力を受けたことがあり、20人に1人は命の危険を感じるほどの暴行を受けたことがあるという結果が出ました(表1)。また、夫婦間での暴行や傷害事件において、被害者は圧倒的に女性です(表2)。
こうした暴力を防止し、被害者を保護するために、新たに「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)が制定されました。

女性の「人」としての尊厳が軽視されるDV

 一般に、暴力には刑法が適用され、接近禁止の措置も仮処分という裁判上の手続きをとることで可能です。そして、たとえ夫婦間の問題であっても、法的には同じ扱いがされる建前になっています。
 しかし現実には、夫婦間の暴力は「夫婦げんか」として片づけられたり、暴力をふるう夫の側には加害の認識が弱く、かえって女性側が「私が至らないせいだ」と考える傾向が強いなど、特殊な事情があります。行政も、数年前までは、中立である行政が男女・夫婦の間に介入するのはまちがっているとの認識すらありました。こうしてDV問題は放置されたまま深刻化し、被害者である女性を自殺においやったり、しばしば児童の虐待を引き起こす原因ともなってきました。
 そこで新法では、条文に先立って、とくに前文をおき、その中で、配偶者による暴力も犯罪であることを改めて宣言しました。そして、社会的・経済的に弱者である女性が、その被害にあっており、個人としての尊厳・基本的人権を害され、男女平等の実現の妨げとなっていること、こうした暴力を防止し、被害者の保護をはかるため、新法を制定する旨を明記しました。

配偶者等による身体的・精神的・性的暴力には支援センターに相談を

 この法律によって保護されるケースは、婚姻関係にある場合と内縁関係に限られます。恋人同士や離婚した場合には、一般の暴力として、刑法やストーカー規制法(「そよ風」108号参照)が適用されることになります。ただ、暴力をふるわれて離婚した後、引き続き危害を加えられるおそれがあるときも、今法律の保護が受けられます(1条)。
 さて、DV防止の最前線の機関として、各都道府県にある婦人相談所や女性センターが、「配偶者暴力相談支援センター」の役割を果たすことになります(3条、平成14年4月1日施行)。
 ここでは、

  1.  被害者からの相談
  2.  医学的・心理的なカウンセリング
  3.  被害者の一時保護(子ども等の同伴も可能。婦人相談所に併設されている一時保護所と一定の基準を満たす民間シェルターが保護)
  4.  被害者の自立のための情報提供や援助
  5.  保護命令(後述)についての情報提供や援助
  6.  いわゆるシェルター(被害者の居住・保護施設)の情報提供や援助

にあたります。
 さらにこの支援センターでは、身体的暴力による被害だけにとどまらず、精神的暴力や性的暴力による被害者も、同じく保護の対象としていますので、ご活用くだ さい。

身体的暴力がひどいときには裁判所の保護命令を

 とくに、配偶者からの暴力により生命・身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときには、被害者が裁判所に申し立てて、次の2種類の措置をとってもらうことができます(保護命令、4章)。

(a) 6ヵ月の接近禁止命令
 しつこく被害者の身辺につきまとったり、理由もなく被害者の自宅・勤務先など生活圏をうろつくことを6ヵ月間禁止する。
(b) 2週間の住居退去命令
 被害者と配偶者が同居しているときには、2週間の間、当該配偶者をその住居から退去させる。

 ただ、保護命令が適用されるのは、身体的暴力(刑法上の暴行罪や傷害罪にあたるような行為)に限定されています。また、婚姻・内縁関係にある者に限られ、離婚したあとには適用されませんのでご注意ください。
<平成16年12月2日より,DV法は改正され,離婚後の元配偶者にも保護命令が適用されることになったほか,(a)については,一定の要件の下で被害者の子への接近禁止命令も発令できることとなり,(b)については,退去命令期間が2ヶ月に拡大されるとともに住居付近の徘徊も禁じられるなど,大きく改正されています。くわしくはそよ風133号参照
<平成20年1月11日からは,さらに,過去に暴力はなくとも脅迫があって危害のおそれが大きいときも保護命令が出せることとなり,(a)については,電話等禁止命令や親族等への接近禁止命令が新たに出せることとなりました。くわしくはそよ風151号参照

保護命令違反には1年以下の懲役
   または100万円以下の罰金

 手続きは、両者どちらかの住居地あるいは暴力がふるわれた地を管轄する地方裁判所に書面で申し立てる必要があります。その際、前述の配偶者暴力相談支援センター(平成14年3月末日までは婦人相談所)か警察に、事前に相談したり保護してもらったことがある場合には、その日時や内容も記入します。もし、これがないときには、供述書を書いて公証人に認証してもらったうえで裁判所に提出しなければなりません(11・12条、「公証人・認証」についてはことば欄参照))。
 裁判は迅速に行なわれます。相手方の言い分を確かめる期日をもったうえで保護命令を出すことになりますが、緊急必要な場合には、これを待たず、即刻命令を出すことも可能です(13・14条)。たとえ相手方が、この決定に対して即時抗告(不服を申し立てて上訴する)をしても、原則として、命令の効力は失われませんから安心です(16条)。
 そしてこの保護命令に違反した場合には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という、刑事罰が加えられることになります(29条)。
 (a)の6ヵ月の接近禁止命令については、夫婦間で解決するなどしたときは、被害者の申立により期間の途中で取り下げることも可能です(相手方からの取下げは、3ヶ月経過後で被害者の同意が必要。17条)。逆に、もっと長期の接近禁止命令が必要なときには、再度の申立もできます(18条)。

まずは実施――3年後を目途に再検討を

 このほか、DVは家庭内で隠されている場合が多いため、発見したときには支援センターか警察への通報につとめること、医師も、患者の意思を尊重しつつ、守秘義務にとらわれず通報することができると定められました(6条)。また、DV被害を防止するための教育・啓発活動や民間団体への援助などについての規定も盛り込まれました(24・26条)。
 新法の成立に伴い、厚生労働省のDV対策費は、今年度(平成13年度)の1億6000万円から、来年度(平成14年度)の約12億円へと大幅に引き上げられ、心のケアにあたる専門家の配置や職員の研修、相談体制の拡充に取り組むこととなります。
 しかし、保護施設やシェルターは、カナダが女性3万人に1つに対し、日本では300万人に1つしかないなど、圧倒的に不足しています。また、実際の職務に携わる相談・捜査・裁判の職員の意識や知識の研修も不可欠で急務な課題です。一方、被害女性の経済的・社会的自立が可能になるための長期的な施策も必要とされるなど、問題は山積しています。
 さらに新法自体にも、保護命令の手続きが現実に即しておらず(実際の相談に当たることが多い市町村の窓口や民間シェルターでは必要な書類が作成できない)、しかも対象を身体的な暴力に限定したなど、多くの問題点をかかえています。加害者へのカウンセリングの義務づけも検討されるべき課題として残されています。そこで新法は、3年後に再び検討されることとなりました。

//ことば欄//

☆ 公証人・認証
 「認証」とは、ある行為や文書の成立・記載が、正当な手続きでなされたことを公の機関が証明すること。DV防止法では、この認証を主に公証人が行うこととなった。
 「公証人」は特殊な公務員であり、元裁判官や検事など、法律にくわしい者の中から法務大臣が任命する。当事者からの依頼により、金銭や土地・建物などの賃貸借、さらに遺言などの公正証書を作成するのが主な仕事。こうして作成された公正証書には、きわめて高い証明力が与えられる。また、DV防止法の被害者の供述書のような私署証書(私文書)や会社の定款に、認証を与える権限をもつ。
 公証人が執務する「公証役場」は、全国主要都市に300ヶ所余り置かれている。法務局や地方法務局に所属し、その機関の管轄区域内の仕事を執務する。
<→本文にもどる>




ホームページへカエル
「最近の法令改正」目次にもどる
次のページ(個別労使紛争処理法の制定)に進む