犯罪を犯した場合、成人(20歳以上)には刑法が適用されますが、未成年者(20歳未満)には「少年法」が適用されます。
しかし、近年、少年による凶悪重大な犯罪が立て続けに起こったのをきっかけに、非行少年の保護を第一に考える現行の少年法では甘すぎるのではないかという声が高まり、このたび、少年法が改正されました。
成人には刑罰 |
「少年法」では、原則として、少年には刑罰(刑事処分)を科すのではなく、少年の健全育成の見地から、少年院送り・保護観察といった保護処分が課せられることとなっています。ただし、例外として、少年の罪質や情状・年齢からいって刑事処分が相当とされる犯行の場合に限り、改めて刑事裁判を受けて少年刑務所で服役する場合もあると定められていました。
しかし、凶悪重大な犯罪を引き起こした少年には、きちんと自分の罪の重さをわからせて反省させるためにも、刑事罰を科すべきではないかと考えられるようになり、刑事処分ができる年齢の引下げなど、次のような一連の厳罰化が盛り込まれました。
14歳以上の少年が |
刑法41条では、「14歳未満の者の行為は罰しない」と規定しています(刑事責任年齢)。
しかし少年法では、これまで、16歳未満の少年には刑罰を課すことはできないと定め、どんな犯罪であるかを問わず、14〜16歳の少年には保護処分だけが可能とされてきました。
今改正で、この16歳という制限を廃止し、刑法が定める刑事責任年齢である14歳になれば、刑事処分の対象となり得ることとしました。つまり、犯行時14歳以上の少年が、死刑・懲役または禁錮刑にあたる罪を犯し、その罪質や情状からみて刑事処分を相当と認める場合、家庭裁判所は検察官に送致決定ができます(20条1項)。
そして、その後の刑事裁判で懲役・禁錮の言渡しがなされれば、少年刑務所に入ることになります(56条1項)。しかし、14歳以上16歳未満の少年に限っては、まだ義務教育年齢なので、16歳になるまでの間は少年院に入れて矯正教育を受けることもできるとされました(56条3項)。
16歳以上で故意に被害者を死亡させたら刑事罰 |
中でも、16歳以上の少年が、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件については、家庭裁判所は、原則として、すべて検察官に送致しなければならないと厳罰化しました(20条2項)。
人の命を奪う行為がどれだけ重い罪であり、少年であっても許されることではないことを認識させるためとられた措置です。
ただし、犯行の動機や態様・情況、少年の性格や年齢・行状・環境などを考慮して、刑事処分が不相当なケースについては、例外的に、検察官への送致がなされないとされています。
少年だから…の軽減措置に歯止め |
このほか、少年法では、18歳未満の少年については、成人の死刑に相当する罪は無期刑に、成人の無期刑に相当する罪には10〜15年の有期刑を科すという軽減措置がとられていました。
今回の改正で、成人の無期刑に相当する罪を犯した場合に、無期刑とするか10〜15年の有期刑とするかを裁判所が判断できることとしました(51条2項)。また、死刑が軽減されて無期刑となったケースでは、仮出獄を許すことができる年数を、成人と同じ最低10年とする(従来は7年)措置がとられました(58条2項)。
裁判官3人による裁定合議制度の導入 |
家庭裁判所が取り扱う事件は1人の裁判官で行うとされています。
少年事件でも、裁判官1人と少年とその保護者が出頭して審判がなされます。付添人といって、弁護士などを立てて少年のための弁護活動をすることも許されていますが、検察官の出頭は認められていませんでした。このため、裁判官は、検察官の役割や弁護側の役割までもこなすことになります。
しかし、最近の少年犯罪事件は集団型が多く、また犯罪の動機が複雑であるので、裁判官が1人で適正な判断を下すのは困難なこともあります。そこで、裁判所法を改正して、必要に応じて裁判官3人の合議制で、多角的な視点により判断の客観性を高めることとしました。
必要に応じて、検察官・弁護士も審判に関与 |
さらに、故意の犯罪行為により被害者を死亡させたり、死刑・無期もしくは短期2年以上懲役・禁錮にあたる罪(殺人未遂・放火・強盗・強姦等)を犯した場合には、その非行事実を認定するため家庭裁判所が必要と認めたときには、検察官の関与を認めるとしました(22条の2)。
検察官が少年審判に関与するといっても、刑事裁判のように少年の犯した罪を証明していくのではありません。あくまで、家庭裁判所の判断に役立つよう、事実関係を明らかにするための証拠の収集や多角的な視点を持ち込むことで、家庭裁判所が見落とすことのないよう、公益の立場から協力するものです。
また一般に、刑事裁判の場合、検察官が必ず関与し、被告人には弁護士が必ずつきます。そして、弁護士が付いていない場合には、弁護士である国選弁護人が選任されることになっています。これと同様に、検察官が関与する少年審判においても、法律の専門家である弁護士が必ず付添人として付くことが定められました。付添人がいないときには、弁護士である国選付添人を選任することとなります(22条の3)。
検察官は抗告受理申立ができる |
家庭裁判所が審判で決定した処分については、少年側にのみ異議の申立て(抗告)を認めており、それ以外の場合には、上級審による見直しの機会がまったくありませんでした。これでは、被害者や遺族が納得できるものではありません。
そこで、今改正で、検察官が関与した事件について、不処分決定や保護処分決定が出された場合に、これらの決定に影響を及ぼす法令の違反や重大な事実の誤認があるときには、検察官が高等裁判所に対して抗告受理の申立てをすることが認められました(32条の4)。
検察官は、家庭裁判所の決定がなされてから2週間以内に、抗告受理の申立てをします。これに対して、高等裁判所では受理するかどうかが検討され、2週間以内に決定されることになります。
被害者らへの配慮を |
犯罪被害者保護法の成立・刑事訴訟法の改正(そよ風109号参照)などの流れを受けて、少年法でも、被害者らへの配慮が組み込まれることになりました。
まず、被害者やその遺族らから、被害に関する心情・その他意見の陳述の申し出があれば、家庭裁判所や調査官が、原則として、聴取することが明文化されました(9条の2)。少年が人の命の重さを認識できないため殺人等の凶悪な犯罪が起きるのではないかという見地から、少年に、被害者らの心情や意見を聞かせることでその反省を深め、少年の更生につながると考えられています。
次に、被害者らから申し出があるときには、少年審判の結果を通知することとしました(31条の2)。少年審判は非公開で行われているので、被害者らには十分な情報が得られないとの指摘があったからです。被害者らには、1)少年及びその法廷代理人の氏名及び住居、2)決定の年月日・主文及び理由の要旨が通知されます。ただし、決定が確定してから3年を過ぎた場合、また通知することで少年の更生を妨げるおそれがあるときは認められません。
さらに、損害賠償を請求するためなど正当な理由があるときに限り(知りたいだけではダメ)、少年への影響・事件の性質等を考慮して相当と認めるときには、当該事件記録の閲覧・謄写ができることとなりました(5条の2)。閲覧・謄写の申し出は、少年審判開始決定が出た時点から終局決定の確定後3年以内にしなければなりません。
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