破産はイヤ!
零細事業者・サラリーマンに「再生の道」開く

自宅は確保したい
困難な道ながら競売の回避も可能に

〜民事再生法の改正[平成13年4月1日施行]〜



 あなたの生活がもし借金地獄に陥ったとき、あなたならどうしますか?


 個人が、多額の債務を抱えて返済のメドが立たなくなったとき、従来、道は2つありました。破産か、任意整理か……
 破産は、裁判所の手を借りて、破産宣告時点のすべての財産を現金にかえ、債権者にその債権額に応じて平等に分配するものです。その後免責決定を得れば、残った債務についてその支払いを免れることができます。
 これに対して任意整理は、個々の債権者の同意を得て、返済額の減額や分割払いに応じてもらうやり方です。この際、特定調停という裁判所の制度を利用することもできるようになりました(特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律、平成12年2月17日施行)。
 今回、これらに加えて、新しい選択の道が開かれました。個人再生手続きと総称されるもので、昨年4月に施行された「民事再生法」(そよ風106号参照を改正し、零細な個人事業者やサラリーマンにも適用できる簡易な制度を新たにもうけたものです。同時に、住宅ローンについての特別措置をも盛り込んでいます。

マイホームだけは手放したくない!
そんなときには、住宅ローン特別条項を活用!!

 マイホームを購入しても、そのローン支払が残っている限り、通常、その土地や建物には、住宅金融公庫や金融機関あるいは保証会社の抵当権が付いた状態となっています。この抵当権にはとても強い権限があり、たとえ破産や再生手続きが行われていても、債権者は別個にこの権利を行使して、そのマイホームを強制競売にかけるなどして債権の回収をはかることができます(別除権の行使)。
 民事再生法では、事業継続に欠かせない工場や事業所については、担保額とは無関係に時価で買い取ることによって、抵当権を抜くことができると定めています(148条)。しかし、マイホームについてのこうした規定はこれまでありませんでした。
 ところが近年、バブル期に高額で購入したマイホームのローンを支払えない事態が深刻化してきました(平成11年には住宅金融公庫分だけで1万5000件、2200億円)。とくに、いわゆる「ゆとり返済」とよばれ、終身雇用や年功序列賃金を前提に、当初の返済額を低くおさえるかわりに、昇進・昇給をあてにして数年後の返済額を高くするシステムが、経済状況の大きな変化の中で過大なローン負担を引き起こしています。そこで、生活の基盤であるマイホームを失わずに再生をはかる道がつくられたものです。
 再生計画の中に、住宅ローンについての特別な条項をもうけることで、競売手続きを中止させることができます(10章)。この制度は、通常の再生手続きに限らず、後述の零細事業者やサラリーマンを対象にした再生手続きにおいても利用できます。もっとも、住宅ローンについて、その元本・利息・損害金のすべてを支払うことが原則で、債務者はその弁済の繰延べをしてもらうに止まります。その方法は次の3つです(199条)。

 上記の(1)〜(3)の内容なら、その弁済計画について債権者の同意は必要としません。
 逆に、債権者の同意があれば、元本の一部免除を受けたり、再生計画で他の債務を弁済している間は利子の支払のみにしてもらう等の取決めをすることも可能です。
 ただし、対象となるのは、債務者が所有する自分の居住用の土地・建物で、店舗兼用住宅では床面積の半分以上が居住用であることが必要です。また、住宅ローンあるいはリフォームのためのローンに基づく抵当権が設定されている場合に限られます(196条)。それ以外の事業用資金などについても抵当がついていれば適用はありませんのでご注意ください。さらに、知人や親族が連帯保証人になっており、この保証人がすでに代位弁済をすませたときにも適用がありません。
 これに対して、金融機関に保証会社が代位弁済した場合には、その代位弁済が再生申立の6ヶ月以内なら、それはなかったこととして扱われます(204条、198条2項)。つまり、元の金融機関が保証会社に受領したお金を返還して、元どおりの債権者となります。なお、住宅ローンの債権については全額返済するわけですから、当該債権者は、再生計画案についての議決権はもたない扱いとなります。

商売は何とか続けたい……
そんな零細事業者には、小規模個人再生手続き

 一般の再生手続きでは、費用も数百万はかかるうえ、かなり厳格な手続きが必要となります。といって、破産手続きでは、現在の財産をすべて手放すことになり、商売を続けることは実質上むずかしいといえましょう。
 そこで、主に零細事業者を対象にした再生手続き「小規模個人再生手続き」が新たにつくられました(13章1節)。
 対象となるのは、土地や建物の抵当権など、別枠で返済が見込めない債権の総額が3000万円以下であり、しかも債務者は、将来において継続的にあるいは反復して収入を得る見込みがある場合に限られます(221条)。したがって、対象となるのは、個人商店主や農業従事者など(サラリーマンについては後述のもっと簡便な制度がある)が予想されます。
 債務者は、再生申立の際に、この制度を利用したい旨を申し出る必要があります。これなら、費用も数十万円ですみますし、通常の再生手続きに比べて簡易なシステムとなっています。たとえば、通常なら選任される監督委員も置かれませんし(必要に応じて個人再生委員が置かれることはある)、厳格な債権調査は行われず、債務者が提出する債権者一覧に基づいて債権届がなされたとみなされ、その債権額に異議がある場合は裁判所において債権額の評価を決めてしまいます(225・227条)。
 再生計画案の決議についても、書面でのみ行うことになり、しかも、反対の回答が、債権者全体の2分の1未満、債権額全体の2分の1以下なら、その再生計画案は可決したとみなされます(230条)。
 ただし、こうした簡便な方法で再生手続きを行いますから、再生計画の内容について、弁済額の最低ラインがもうけられるなど、いくつかの規制があります(229・231条)。

表1 小規模個人再生手続きが認可される最低条件
担保のない債権総額 弁済総額の最低ライン
100万円未満 担保のない債権総額満額
 100万円〜 500万円 100万円
 500万円〜1500万円 担保のない債権総額の5分の1の額
1500万円〜3000万円 300万円

あなたがサラリーマンなら…
もっと簡便に、給与所得者等再生手続きも可能です!

 もし、債務者が、前述の小規模個人再生手続きの対象者(無担保の債権総額が3000万円以下)で、しかも、給与またはこれに類する定期的な収入があり、その収入の変動幅も少ないなら、さらにもっと簡単な手続きがとれることになります。通常のサラリーマンが主に対象と考えられます(13章2節)。
 このときには、再生計画案に対する決議も必要ありません。債権者から意見聴取は行われますが、再生計画の内容が、次の要件を満たしていれば、基本的に認可されることになります(241条)。

 つまり、(6)の2年分の可処分所得が、(5)表1より高ければ(たとえ300万円以上でも)、その金額を弁済にまわし、逆に(6)の額が(5)表1の額より低ければ、表1に従うことになります。(6)の最低生活費を算出するためには、地域・年齢・扶養家族の構成等によってきめ細かな数字が決められており、これにしたがって計算することになります。
 なお、この「給与所得者等再生手続き」は、過去に破産免責を受けた場合や、過去に再生手続きをとった場合には、各々その決定の確定から10年間は利用できません(239条5項2号)。

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 「小規模個人再生手続き」も、「給与所得者等再生手続き」も、その再生計画の決定が確定した時点で、終結します。
 もしその後、計画の遂行がやむを得ない事由で、どうしても遂行できなくなったときには、2年を限度として、弁済の期限を延長することができます(234条)。
 また、債務者の責めに帰することができない事由で、計画の遂行ができなくなったものの、すでに計画に基づく弁済の4分の3以上を終えている場合には、その残額については免責措置をとることができます(235条、ハードシップ免責)。こうした点でも、新しい制度は、通常の再生手続きに比べてゆるやかなものとなっています。




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