
消費者トラブルの解決に大きな一歩
消費者契約法の制定
平成13年4月1日以降に結ばれた
消費者と事業者の間のあらゆる契約に適用される

現代は複雑な契約社会です。
ロビンソン=クルーソーのように南海の孤島にでも流されて自給自足の生活をしない限り、いくつもの契約に囲まれて生活していくことになります。
中でも、私たち消費者が事業者と結ぶ消費者契約は、けっして対等な契約とはいえません。事業者は豊富で専門的な情報をもち、また大きな交渉力をもっています。これに対して、私たち消費者は、現実にどれほど理解してその契約を結んでいることでしょう。
これまでも、「消費者保護基本法」(1968年)が制定され、消費者保護のための取組はなされてきました。品質表示を義務づけたり、品物の規格化を行ったり、旅行業法や貸金業法などで業界そのものを規制したり、あるいは訪問販売法(平成13年6月より「特定商取引法」と改称)や割賦販売法などで一定の取引について消費者のための保護措置をとったり、また、PL法で製造物責任を明確化するなど、さまざまな行政上の措置がとられてきました。
しかし、社会は複雑化し、消費者契約は多様化するばかりです。国民生活センターや各地の消費者センターに寄せられる苦情・相談(約42万件)の8割以上にあたる約34万件が契約や販売方法に関するものとなっています(平成10年度)。
そこで、このたび、消費者と事業者という対等でない者が結ぶ、すべての契約(ただし労働契約は除く)に適用する基本的なルールとして、「消費者契約法」が施行されました。
「民法」は、対等な間での契約を前提につくられています。そのため、契約を取り消せるのは「詐欺」や「強迫」にあった場合に限られ、しかも被害にあった側にそれを立証する責任があります。
「消費者契約法」では、弱い立場の消費者に配慮し、事業者が勧誘の際に次のような行為をしたときには、その契約を取り消すことができると定めました(4条)。
- (1) 不実告知
- 契約締結の判断に影響を及ぼすような重要事項(質・用途・対価・その他の取引条件など)について嘘をいう。
- (2) 断定的判断の提供
- 必ず値上がりする・確実に儲かるなどと、将来どう変動するか不確実なことを断定的に告げる。
- (3) 不利益事実の不告知
- 消費者に利益となることだけを告げて、不利益になることは故意に告げない。
- (4) 不退去・監禁
- 自宅や勤務先から帰るよう意思表示をしても帰らない、あるいは営業所などで帰りたいと意思表示をしても帰さない。
事業者の(1)〜(3)の行為により消費者が「誤認」し、あるいは、事業者の(4)の行為により消費者が「困惑」(自由な判断ができない状況)して、契約を締結した場合には、その契約を取り消すことができると明文化されたものです。
また、消費者契約では、事業者から契約の媒介を委託されたものが勧誘したり、代理人が事業者に代わって取引することがよくあります。こうした場合でも、これら委託者や媒介業者・代理人の同様の行為についても、取消しの原因となります(5条)。
ただ、消費者が、(1)〜(3)の誤認に気付いたとき、あるいは、(4)の事業者などから解放されたときから6ヶ月が経てば、契約はもはや取り消せません。また、契約締結から5年を経過しても時効となります(7条)。これは、民法の取消権の時効が、それぞれ5年・20年と定められているのに対して、ずっと期間が短いのでご注意ください。
契約の中に、消費者に一方的に不利な条項が入っている場合、これまでは民法に基づき、「信義則」あるいは「公序良俗」という抽象的概念に違反しているかどうかで、その有効・無効を争うほかありませんでした。
「消費者契約法」では、どういう契約条項が無効となるかを明確にしました(8条)。
- (1) 事業者の債務不履行・不法行為による責任を全部免除する条項
- たとえば「いかなる場合も損害賠償責任を負わない」「事業者の責めに帰すべき事由があっても一切責任を負わない」等。
- (2) 事業者やその使用者の故意または重大な過失によって起こった債務不履行・不法行為について、責任の一部を免除する条項
- たとえば「事業者が損害賠償の責任を負担する場合は10万円を限度とし、それ以外の責任は一切もたない」等。
- (3) 有償契約の目的物に隠れた瑕疵(キズ)があったときの損害賠償責任を全部免除する条項
- たとえば「引き渡し以後に発見された瑕疵については一切責任を負いません」等。
- ただし、瑕疵ないものと交換あるいは修理するという旨の条項があれば、無効にはならない。
また、次のような条項については、消費者に不利な部分のみが無効となります(9条)。
- (a) 契約の解除に伴う損害賠償額を予定する条項
- たとえ契約解除の責任が消費者にあったとしても、同種の契約の解除で生ずる損害の平均額を支払えばよく、それ以上は無効。
- (b) 支払期日までに消費者が支払えないときの損害賠償額・違約金を予定する条項
- 未払額に年率14.6%を超えて課した場合、その超えた部分は無効。
無効と取消しの違い
無 効 |
取 消 し |
(1)特定の人の主張がなくとも当然に効力が認められない。 |
(1)特定の人(取消権者)の主張(取消し)があってはじめて効力がなくなる。 |
(2)すべての者は、最初から効力のないものとして取り扱わなければならない(全然無効)。 |
(2)取消しのない間は、効力のあるものとして取り扱わなければならない(一応有効)。 |
(3)放置(時間が経過)しても効果に変更がない。 |
(3)放置しておくと有効に確定する(取消権の消滅)。取消されると最初から効力のないものとなる。 |
さらに、民法・商法などにしたがえば当然あったはずの「消費者の権利」を制限する(逆に「消費者の義務」を重くする)ような特別な条項を入れて、信義則に違反して、消費者の利益を一方的に害するものは無効とされます(10条)。たとえば「事業者は催告なしに即時に解除できる」「紛争解決にあたっては事業者の選定した仲裁人の仲裁による」というような条項がこれにあたります。
なお、この法律の対象となるのは、平成13年4月1日以降に、消費者が事業者と結ぶすべての契約です(2条3項・附則)。
「消費者」とは、事業以外の目的で契約をする個人をさします。また「事業者」とは、法人やあらゆる団体、そして個人でも事業上の契約をする者のことです(同条1項・2項)。ちなみに「事業」とは、営利目的かどうかは一切関係なく、一定の目的をもって同種の行為をくりかえし続けておこなうことをいいます。
したがって、事業をしている個人については、契約の内容によって、「消費者」と「事業者」どちらの立場にも立つことがあります。一方、非営利の同窓会や町内会といえども、団体である限り、本法の「消費者」ではなく保護の対象とはなりません。逆に、団体である限り「事業者」となりますので、非営利の行為についても本法が適用されますので、ご注意ください。
ただ、労働契約のみは、特殊な契約ですので、この法律の適用は除外されました(12条)。
また、契約の取消し・契約条項の効力のうち、この法律で定めていないものについては、民法・商法が適用されます。さらに、訪問販売法(現「特定商取引法」)や旅行業法といった個別の法律の中で、とくに契約の取消し・契約条項の効力について定めている場合には、本法よりもその個別法が原則として優先されます(11条)。個別法は、その取引等の実情や特性を考慮して定められているためです。
* * *
消費者契約法は、消費者に契約の取消しや不利な条項の無効を主張できる範囲を新たに広げました。しかし、事業者の情報提供や明確・平易な説明は努力義務にとどめています(3条1項)。IT革命で、ますます取引が多様化・複雑化するのは必至の状況で、この法律についても、施行後5年を目途に見直しが予定されています。


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