
刑事裁判は厳正に!!
でも、被害者の権利・心情にも十分な配慮を!
〜犯罪被害者保護法の制定〜
〜刑事訴訟法等の一部改正〜

犯罪の被害者は、すでに犯罪によって精神的に大きな打撃を受けています。そのうえ、事情聴取や裁判での証言などで心ない扱いを受け、被害を拡大させるようなことは、けっして許されません。また、被害を届け出た後、捜査の状況や被疑者・被告人がどう措置されたのかも知らされないのでは、かえって不安が高まったり、いつまでも事件を精神的に乗り越えられない事態を招くことにもなります。
こうした反省の上に、捜査・検察段階では、被害者への対応に配慮し、被害者にも情報を公開する手続きが、ここ数年、徐々に進められてきました(警察による「被害者の手引」の作成・配布、検察による「被害者通知制度」)。しかし、とくに刑事裁判においては、被告人が有罪か無罪かの事実認定を正しく行うことを重視するあまり、被害者の心情や権利に配慮するための取組みが遅れていました。そこで刑事裁判においても、犯罪の被害者の視点に立った改正が行われることとなりました。
- 1 証人に対する保護〔刑事訴訟法の改正〕
- 年少者や性犯罪の被害者が証人となる場合、安心感を与えるため、心理カウンセラーや親などが横に付き添うことができるようにしました。また、証人の精神的圧迫を軽くするため、必要に応じて、証人と被告人・傍聴席の間に衝立を置くなどの措置をとることもできます(157条の2・3、H12・11・1施行)。さらに、強制わいせつや強姦・児童を対象にした性犯罪などで、被害者が証人として法廷に出廷することが、二次的被害ともいえる大きな精神的圧迫を与える場合には、証人は別室にいて、テレビモニターを通じて証言することができるようになります。しかも、犯人が複数で審理が別々に行われている場合など、これまではつらい証言を何度もさせられることさえありました。そこで、証人の了解を得て、右の尋問のモニター画面をビデオ等で録画し、証拠として使用することも可能となります(157条の4、平成13年秋までに施行)。
- 2 性犯罪の告訴期間の廃止〔刑事訴訟法の改正〕
- 性犯罪の被害者は、犯人を知った日から6ヶ月以内に告訴しなければなりませんでした。しかし大きなショックを受け、期間内では、告訴するかどうかの判断や決心がつかないことも少なくありません。そこで、告訴期間の制限が撤廃されました(235条1項、H12・6・8施行)。
- 3 被害者による意見陳述〔刑事訴訟法の改正〕
- 裁判で、被害者の心情は吐露できないまま、被疑者の情状のみが取り上げられるやり方では、被害者が判決になかなか納得できないのも無理はありません。そこで、被害者やその遺族が、法廷で被害に関する心情や意見を述べることができるようにしました。意見陳述を希望する場合は、検察官を通じて裁判所に申し出ます。裁判所では、相当でないと思われるとき(その場合でも書面陳述は可能)以外は、原則としてこれを認めることになります(292条の2、H12・11・1施行)。
- もっとも、被害者の意見は、被告人の量刑に反映されることはありますが、当然ながら、無罪・有罪の事実認定に影響することはありません。
- 4 検察審査会への申立拡大〔検察審査会法の改正〕
- 事件が不起訴処分(事件を裁判にかけないこと)となり、これに不服があるときは、被害者は検察審査会に申立てをすることができます(「検察審査会」についてはそよ風95号参照)。しかし、死亡した被害者の遺族には、この権利がありませんでした。そこで、遺族にも申立権の範囲を拡大したものです(2条2項、H12・6・8施行)。
5 犯罪被害者保護法の制定(H12・11・1施行)
- (1) 公判傍聴の優先措置
- 刑事裁判は、原則公開です。社会的に関心が高い事件では、傍聴者が殺到し、くじ引きで傍聴券が配られるケースもよく見られます。新法では、被害者やその遺族らが傍聴を希望する場合には、優先的に傍聴できることが明文化されました(2条)。
- (2) 公判記録の閲覧・謄写
- 刑事裁判の途中でも、被害者は損害賠償を求めて民事裁判を起こすことがあります。従来は、刑が確定するまでは公判記録の閲覧・謄写が認められませんでしたが、それでは、刑事裁判が長引けば、損害賠償にも大きな影響が出てしまいます。そこで、公判が続いてる事件についても、一定の場合には、途中で記録の閲覧・謄写ができることとしました。しかし、未だ有罪・無罪も確定していない段階での記録開示になりますので、慎重な取扱いが必要となります(3条)。
- (3) 和解を公判調書に記載
- 被害者と被告人の間で損害賠償などについて示談がまとまっても、被告人がこれを実行しなければ、別途、民事裁判などの手続きをとる必要があります。新法では、刑事裁判の途中で、被告人と被害者(債務の履行に第三者が保証する場合はその人も)が申し立てれば、和解内容を公判調書へ記載することができることとしました。和解を記したこの公判調書は、民事訴訟の判決や和解と同一の効力をもち、もし被告人側が実行しなければ、すぐにこの公判調書で取立などの強制執行をすることが可能となります(4条)。
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なお、被害者に対する経済的支援を行うために、「犯罪被害者等給付金支給法」が制定され、昭和56年よりスタートしています(右図参照)。これは、通り魔など犯人がわからないときや犯人に損害を賠償する資力がないときに支給されるものです。制度発足から20年の間に、4000人以上の被害者・遺族に給付金(一時金)が支給されましたが、額が余りに少ないとの批判が多く、見直しが検討されています。また別途、被害者の子弟に奨学金などを支給するための財団法人犯罪被害救援基金も設立され、奨学金や重障害者に対する障害見舞金を給付しています。


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