<「児童虐待防止法」は一部改正され,平成16年10月1日より施行されています。くわしくはそよ風131号参照>

子どもは親の所有物ではありません!
子どもの命・人権を最優先に
児童虐待防止法の制定
平成12年11月20日施行

わが国の昨年(1999年)の出生率は過去最低となりました。生活は豊かとなり、そのうえ少子化がこれほど進むと、子どもたちは、本来、親やまわりの大人たちからたくさんの愛情をもらえるはずです。ところが現実には、近年、児童虐待への相談件数は急増し、子どもの命を奪う悲惨な事件があとを絶ちません。
従来からも、もちろん、児童の虐待は禁止されています。児童福祉法では、保護者が児童を虐待したときは施設に保護するなど必要な措置がとれると規定しています(28条)し、子どもを遺棄したり、子どもに暴行を加えれば、当然、刑法で罰せられます。しかし、同時に、民法では、親権者に「子の監護及び教育をする権利」を定め、「必要な範囲内で自らその子を懲戒」できると、強い権限を与えています(820・822条)。こうして、親は自分の子は自分でしつけると社会の介入を拒否し、警察は家庭に入らずと及び腰となり、児童を守るべき児童相談所も親の了解なしに強硬な措置はとりづらく……一番の被害者である子どもたちが取り残される現実がありました。
児童の虐待は家庭という密室で行われることがほとんどです。子どもは助けを求める術もわからず、却って、虐待されるのは自分が悪い子だからと自らを責める──こんな現状が許されるはずはありません。
平成6年の「児童の権利条約」発効から6年がたち(そよ風72号)、社会的弱者である子供の権利・人権を守るための制度を一層具体化し、拡充することが求められています。すでに平成11年秋には児童買春禁止法も制定されました(そよ風101号)。
児童を虐待から守る児童相談所の取組みも、こうした社会の動きを受けて、地域や専門家の幅広い協力をあおいで積極的に行われるようになってきました。そして今回、新たに、まず何より、子どもの命と人権を第一に優先させるという考え方に基づいて、「児童虐待の防止等に関する法律」が制定されました。
本法では、何人も児童を虐待してはならないと宣言し、たとえ親でも、児童のしつけには自ずと限度があり、たとえしつけ名目でも暴行・傷害等を犯せば当然罰せられるということが、改めて明記されました(3・14条)。
そして、保護措置がとりやすいように、保護者(親権者・未成年後見人・その他児童を監護する者)が児童(対象は18歳未満)に何をすることが虐待に当たるかという定義を、次の4つに明確に規定しました(2条)。
- (1) 身体的虐待
- 殴る・蹴る・やけどさせる・冬の戸外に締め出す等々、児童に外傷が生じまたは生じるおそれのある暴行を加えること。
- (2) わいせつ行為
- 児童にわいせつな行為をすること、または児童にわいせつな行為をさせること。
- (3) 保護の怠慢(ネグレクト)
- 発育が妨げられるほど食事を与えない、長時間放置する、病気になっても治療を受けさせない等々、保護者としての監護を著しく怠ること。<平成16年10月1日より,保護者以外の同居人による身体的虐待・わいせつ行為を放置することも追加明記された>
- (4) 心理的虐待
- 子どもの自尊心を傷つける言動、言葉による脅し、無視や拒否的な態度等々、児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。<平成16年10月1日より具体例を明記した。そのなかで,家庭内でのDV(配偶者や内縁関係にある者への暴力)も記載>
虐待された児童を発見した人は、福祉事務所・児童相談所に通告する義務があります(児童福祉法25条)。<平成16年10月1日より「児童虐待防止法」が改正され,その6条1項により,”児童虐待を受けたと思われる”児童を発見した人に通告義務を課すこととした>本法ではさらに早期発見に努めるため、次の規定が盛り込まれました。
まず、もっとも児童虐待を発見しやすい立場にある者として、教職員・福祉施設職員・医師・保健婦・弁護士などを具体的にあげて、早期発見に努めるよう明記し、この努力義務は職業上の守秘義務に優先することが定められました(5条・6条2項)。
さらに、通告人の氏名等が特定されるような情報は漏らさないよう規定し、虐待を発見した人が躊躇することなく通告することで、少しでも早く虐待された児童が保護できるよう考えられています(7条)。
これまで、児童福祉法では、家庭裁判所が虐待された児童を保護者の反対にもかかわらず里親に出したり施設に入れるという審判をなすとき、必要があれば、家庭に立入調査ができると定めていました(28・29条)。そしてこの立入調査は現実にはほとんどなされていません。
そこで本法では、児童虐待の「おそれ」さえあれば、都道府県知事は、児童相談所職員などを児童の家に立入らせ、調査・質問させることができると定めました(9条)。しかもその際、必要があれば、警察官の援助も求めることができます(10条)<平成16年10月1日より,さらに「必要に応じ適切に」援助を求めることが義務づけられた>。
こうして、児童の安全確認と保護を、何より第1の優先事項とすることが明確にされました。児童相談所では、必要に応じて、施設などに一時保護することができます(8条。ただし原則として2ヶ月、必要なら延長可、児童福祉法33条)。
一方、児童を虐待した保護者の側にも、児童虐待の原因となる自分自身の心のキズや大きなストレスを抱えている場合がけっして少なくありません。そこで保護者も、必要に応じて、カウンセリングなどを受ける義務があります(11条)。
また新法では、虐待を受けた子どもを、保護者の反対を押し切って家庭裁判所の審判で里親や施設に入所させたときには、当該保護者から子どもを守るためには、面会や通信を制限することもできると、親権の一部停止をも認めています(12条)。
さらには、現状ではほとんど活用されていない民法による親権の喪失(剥奪)の制度も、虐待から児童を守る視点から、適切に運用することまで盛り込まれました(15条)。
* * *
子どもの命と権利を守ることを第一に優先し、断じて児童の虐待を許さないという強い人権意識の上に、今法は制定されました。今後、施行後3年を目処にさらに検討が加えられ、必要な措置が講ぜられることとなります(附則2条)。


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