薬物ピストル……組織的な重大犯罪に適用

通信傍受法いよいよ平成12年8月15日施行

問われる 厳格・公正な運用



悪質な集団犯罪を組織ごと根絶やしに


 覚せい剤販売の手口がますます巧妙化し、末端の販売人を捕まえることはできても、元締めや密輸組織といった要をつかめないため組織を根絶できない──
 オウム真理教に見られるように、殺人の実行犯は逮捕できても、組織の上層部が犯罪にどう関わったかがなかなか立証できない──
 不法入国者を水ぎわで摘発できても、これを手引きする集団密航の組織が解明できずいたちごっことなる──
 こうした組織的な重大犯罪に対処するため、捜査の過程で、犯人たちが連絡に使っている、電話など電気通信の傍受を行うための法律が新たに制定され、2000年8月15日施行されました。
 この新法、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」(通信傍受法)について、その仕組みを簡単にみていくことにしましょう。

重大な4つの犯罪で、他に方法がないときに限定


 通信傍受法の適用対象となる犯罪は、別表のとおり、

の4つの犯罪に限られます。いずれも犯罪組織が深く関与している事例が多い犯罪です。
 上の4つの犯罪の実行に関連して、複数の犯人の間で通信が行われると疑われ、しかも事情聴取や聞込み・張込みなどといった他の方法では犯行を解明することが著しく困難である場合に限って、通信の傍受が認められます(法3条)。

別表 傍受の対象となる犯罪一覧
(1)薬物に関する犯罪
 大麻取締法
  (栽培・輸入等・所持・譲渡し等)
 覚せい剤取締法
  (覚せい剤の輸入等・所持・譲渡し等、覚せい剤原料の輸入等・製造・所持・譲渡し等)
 麻薬及び向精神薬取締法
  (ジアセチルモルヒネ等並びにそれ以外の麻薬の輸入等・譲渡し・所持等、向精神薬の輸入等・譲渡し等)
 あへん法
  (けしの栽培、あへんの輸入等、あへん等の譲渡し・所持等)
 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律
  (業として行う不正輸入等)
(2)銃器に関する犯罪
 武器等製造法
  (鉄砲の無許可製造、鉄砲以外の武器の無許可製造)
 鉄砲刀剣類所持等取締法
  (けん銃等の発射・輸入・所持・譲渡し等、けん銃実包並びに部品の輸入・所持・譲渡し等)
(3)組織的な殺人
 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律←「ことば欄参照」
  (殺人、逮捕及び監禁、身の代金目的略取等)
(4)集団密航に関する犯罪
 出入国管理及び難民認定法
  (集団密航者を不法入国させる行為等、集団密航者の輸送・収受等)

傍受令状により最長30日間の傍受


 ご存知のように、逮捕や捜索・押収は各令状なしにはできません(憲法33・35条)。同様に、通信傍受も、傍受令状が必要とされます(法3条)。
 令状を請求できるのは、検事総長が指定する検事、あるいは国家公安委員会か都道府県公安委員会が指定する警視以上の警察官などに限られ、しかも警察の場合には都道府県警察本部長(東京都は警視庁長官)の事前承認が必要となります(法4条、規則3条)。これにより、警察官個人による行き過ぎた違法捜査をチェックするとともに、警察組織としての責任を明確にしました。
 傍受令状の発付を決定するのは、各地方裁判所の裁判官の権限です(法4・5条)。捜査資料などを参考に、当該犯罪が行われた、あるいは当該犯罪を準備するために重大な犯罪が行われたと疑われる「十分」な理由があるときに発付されます。逮捕令状なら「相当」な理由で足りるとされていますから、これよりさらにきびしい規制がなされたわけです。
 なお、犯行に使われていると思われる電話番号やEメールアドレスなどを特定した上で、被疑事実の要旨や傍受方法・場所など、令状にはくわしい記載がなされます(法6条)。
 傍受期間は10日以内。必要があればさらに10日以内延長することができますが、最長30日を超えない範囲でしか傍受できません(法5・7条)。この期間延長のための手続も、令状交付と同様の手順で行われます。

傍受は、犯罪に関係した最低限の通信に限定


 さて、実際の傍受は、原則として、NTTなどの通信施設で行われることとなります。通信事業者は機器の接続などに際して技術的に協力する義務があります(法11条)。
 FAXやEメールなどでは、その場ですぐに通信の内容が解明できないため、とりあえず全部を傍受することになりますが、電話の場合は、断続的に傍受して必要か否かを判断します(法13条)。装置は、通話の初め数分間をとりあえず傍受し、犯罪に関係あるものなら継続して傍受でき、無関係と判明したらすぐに中止、はっきり断定できないものも数分で自動的に中断するようになっています(スポット傍受、規則11条)。中断した後も通話が長く続くようなら、再び自動的にスポット傍受を開始します。
 なお、傍受しているときに、当該犯罪とは別の重大な犯罪(同法に規定する犯罪のほか、死刑・無期あるいは1年以上の懲役・禁錮に相当する犯罪)についての通信がなされたときには、いわゆる現行犯逮捕と同じ扱いで、令状なしに傍受できることを規定しました(法14条)。また、傍受の中で、捜査のために必要があるものについては、その場で相手方の電話番号等を逆探知することも、令状なしにできます(法16条)。
 傍受に際しては、通信事業者(無理なら地方公務員)が立会人として同席し、正しい手順で行われているかを確認し、異常があれば意見を述べることができます(法12条)。そして傍受が終了したときは、録音等記録したものの原本を立会人が封印した上で、当該裁判所に提出し保管されます(法20条)。

傍受記録の作成と当事者双方への通知


 捜査側は同時にこのとき複製を作成しておき、これをもとに犯罪と関係のない不用な箇所を消去し、必要な箇所だけ残した傍受記録を作成します(法22条)。
 この傍受記録に載った通信については、通信の送り手・受け手の双方に、当該通信を傍受した旨の通知を、傍受終了後30日以内にします。ただし、捜査が妨げられるおそれがあるときは60日以内に延期することが可能です(法23条)。
 この通知を受け取った人は、当該部分の傍受記録を聞いたり、閲覧したり、あるいは複製を作ることもできます。傍受記録が正確かどうか確認する必要があるときには、裁判所に保管されている記録の原本をも閲覧等することができます(法24・25条)。

通信の秘密を犯した公務員には3年以下の懲役


 なお、その業務上の性格から、医師・歯科医・助産婦・看護婦・弁護士・弁理士・公証人・宗教職にある人が、その仕事上の内容で連絡していると認められるときは、傍受することは禁止されました(法15条)。
 またこの捜査の過程で知りえた通信の秘密を犯した公務員には、3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます(法30条、未遂も同罪)。
 これに伴って、電気通信事業法等も改正され、電気通信事業者や一般の人に対する罰則も強化されました。電気通信事業者等が通信の秘密を犯した場合は、右公務員と同様、3年以下の懲役または100万円以下の罰金、一般人については、2年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。
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 この新法については、通信傍受法=「盗聴法」だ!通信の秘密(憲法21条2項)を侵すものだ!警察のやり方は信用できない!法の廃止を!など、批判の声が根強いなかでスタートすることとなりました。警察の不祥事が続発し、警察への信頼が大きく損なわれているときだけに、より一層の慎重な運用が何よりも必要とされています。




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