<この記事は,2000年(平成12年)8月号の内容に,その後の改正をふまえて若干の訂正を加えたものです>

名称・産地など
食品すべてに品質表示義務づけ
有機農産物にJAS規格
勝手に有機・オーガニック名のると罰金
JAS法の改正 H12.6.10施行
最近、スーパーや商店街などの店頭で、魚や野菜売場の表示が少し変わったことにお気づきでしょうか。これは、日本農林規格(JAS)法、正式には「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」が改正され、この6月10日から施行されたものです。
消費者が商品を選ぶ際、そこに書かれている表示内容は当然のことながら判断に大きな影響を与えます。必要で、しかも正しい情報の提供は、消費者の保護に欠かせないものです。そこでJAS法では、農林物資について、業者が守るべき表示のルール(品質表示基準)を定めています。
この品質表示基準は、これまでは、必要だと思われる商品を別個に指定して(64品目の食品)、それについてのみ、品質表示を義務づけるものでした。しかしこれではあまりにも対応が不十分であり、消費者が安心して購入するためにはその抜本的な拡充が求められていました。
そのため、今回の改正で、一般消費者向けのすべての食品について、品質表示を義務づけることとしました(法19条の13)。そして従来のように品目ごとに異なる品質表示基準を設けるのではなく、食品すべてを対象にした横断的な品質表示基準が作成されます。この横断的な品質表示基準としては、「生鮮食品」「加工食品」「遺伝子組換え食品」などがすでに定められ、いずれも、全食品目を対象にした国際的な表示基準(コーデックス包装食品一般表示規格)にならったものとなっています。また必要に応じて、個別の品質表示基準を決めることもできます(今のところ「玄米・精米」について定められている)。
このうち、「生鮮食品」については、すでに本年7月1日より義務づけられており(その他はすべて来年4月1日施行で、そよ風でも取り上げる予定)、店頭の表示が変わったのもこのためです。
生鮮食品(農産物・畜産物・水産物)については、その「名称」と「産地」の表示が義務づけられました(下表参照)。
表 生鮮食品の品質表示基準(産地)
| 国 産 品 | 輸 入 品 |
農 産 物 | 都道府県名 (市町村名その他一般に知られる地名でもよい) | 原産国名 (一般に知られる地名でもよい) |
畜 産 物 | 国産である旨 (都道府県・市町村名その他一般に知られる地名でもよい) | 原産国名 |
水 産 物 | 水域名=海域・湖沼等の名称又は養殖場のある都道府県名 (水域が特定できないときは水揚港又はその都道府県名) | 原産国名 (水域名を併記してもよい) |
とくに水産物の場合、それが「養殖」あるいは「解凍」したものであれば、その旨も表示しなければなりません。また、肉や小麦粉・豆などといった、必ず包装して販売されるものについては、さらに「内容量」と「販売業者名」の表示が必要です。
これらの表示基準を守らない事業者には、従来は指示・公表といういわば社会的制裁のみでしたが、今改正で、さらに命令を出しても従わなければ1年以下の懲役または100万円以下の罰金(法人の場合は1億円以下の罰金)が科されることとなります(法19条の14)。とくに、原産地表示を偽装した飲食料品を販売した製造・加工・輸入・販売業者には、2年以下の懲役または200万円以下の罰金という重い罰則が設けられています(法23条の2。平成21年5月30日施行)。
安全で健康的な食品を食べたい──これが消費者の切実な願いといえましょう。町には、有機食品やこれに類した名称の食品が多数出回るようになりました。
農林水産省では「ガイドライン」できびしい基準を定めましたが、法的拘束力はなく、事業者の自主性に任せられたまま、あいまいな表示が横行しています。これでは、消費者は混乱し、まじめに有機栽培に取り組む生産者にとっても腹立たしい限りです。
そこで今回、「有機農産物」と「有機農産物加工品」をJAS規格として制定し、“有機”“オーガニック”などと名乗るには検査・認証を受けてはじめて表示できることとしました(法19条の15)。
「有機農産物」の基準は、
(1) 化学肥料・化学合成土壌改良材・化学合成農薬を一切使用しない農場で栽培され、
(2) その輸送・選別・貯蔵・包装等の工程でもこれらの薬剤使用や放射線照射は行わず、
(3) その種や苗そのものが(1)(2)の環境で育成されたもので、しかも遺伝子組換えは行われておらず、
全過程を通じてきちんと管理されているものに限ります。とくに(1)については、多年作物(りんごやみかんのように多年栽培の樹木からとれるもの)や自生植物(松茸やたけのこなど)では3年、それ以外の作物(米や多くの野菜など1年以内に収穫するもの)では2年にわたり、条件を満たす土壌で育っていることが必要です。
こういう土壌へ農場を転換中の場合は、収穫前1年以上にわたり(1)の条件を満たしていれば、「転換期間中」と記載して、有機・オーガニックを名乗ることができます。
一方「有機農産物加工食品」の基準は、(a)原材料の95%以上が有機農産物であり、(b)他の農産物を混ぜる場合も放射線照射食品や遺伝子組換え食品は使わず、(c)食品添加物も必要最小限におさえ(遺伝子組換えはダメ)、(d)製造・加工の方法も物理的または生物的(発酵・燻製など)なものに限っています。
こうしたきびしい基準に合格し、しかも認証を受けたものだけが”有機”と呼ばれ、特定のマークを貼ることになります。もし無認可で「有機」表示をした場合には、表示の除去・抹消、販売禁止の措置が取られ、これに違反すると50万円以下の罰金に処せられます(法19条の16)。
この規格が満たされる農産物やその加工品は、現状では全体の1%程度にとどまる見込みです。それ以外は、特別栽培農産物といって、「無農薬」「減農薬」「無(減)化学肥料栽培」などと、従来どおりのガイドラインで定められた、罰則のないゆるやかな基準で市場に多く出回ることになりそうです。
JAS規格は、缶詰や乳製品・ハムなどといった加工食品を中心に、生糸・畳表などの農産物や、合板・フローリングなど林産物についても多数定められています。この基準に合格し認証を受ければ、JASマークを付けることができます。しかしこれは任意の制度で、マークなしでも流通は規制されていません。
そして近年では、技術水準が非常に高まった結果、規格不適合の商品はほとんど見られなくなりました。規制緩和の流れのなかで、JASの格付けについても、民間の検査機関(営利組織を含む)に開放することとしました。さらに、格付けはこれまで第三者が行っていましたが、一定の基準を満たす事業者については、自己の責任において格付けすることができるように改正されました(法14・16条)。
今般、雪印をはじめ、多数の食品加工工場のお粗末な実態が相次いで明らかになっているとき、慎重な運営と、事業者の一層の自覚が望まれるところです。


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