倒産…企業再建に向け迅速・的確な法的支援を整備

民事再生法の制定
平成12年4月1日より施行中

倒産!!  破産か再建か、それが問題だ…


 そごうグループが倒産し、このたび民事再生法の開始決定が出たことは大きく報道されました。産業構造の急激で大きな変化の中で、今や中堅であろうと、大手であろうと、けっして安穏とはしていられず、経営に失敗すれば、倒産は必至の時代といえます。
 経営が不振となり、倒産に瀕したとき、取るべき道は2つに1つしかありません。債権者の協力(再建の一部放棄や弁済の猶予など)を得てもう一度やり直すのか、それとも、もはやここまでとあきらめて破産・解散するのか。
 ところが、倒産についての旧来からの法制度ではもはや十分に対応しきれず、その是正が強く求められていました。とくに、再建しようとするとき手助けとなるシステムはきわめて不十分なものでした(倒産法のしくみについてはことば欄参照)。

大企業には会社更生法 中小企業は自力で再建!?



 たとえば、大企業の再建のためには、会社更生法が適用されます。これは、大企業の倒産を想定し、社会的に大きな影響を出さずに何とか再建できるよう、法的に強力な措置がとれる複雑な法律です。しかし、個人事業者や中小企業などにこの法律は適用されません。
そこで、これらの事業者が再建への法的な手続をとるとき多くが利用するのは、和議法とよばれる制度でした。ところがこの和議法では、不渡りを2回出すなどもはや支払不能となった段階でしか申立てができず、しかも申立時に早くも再建計画(和議条件)を提出しなければならず、この和議条件の可決には債権者の議決権額の4分の3以上の同意が必要であり、こうしてようやく成立した和議条件も履行されるかどうかは法的にほとんど保証がないといったものでした。
 このため、平成11年に申請のあった和議事件は231件にすぎず、多くの再建は、法的な支援のないまま自力で行うか、あるいは再建をあきらめるしかないのが実情でした。しかし、各企業は倒産にいたるまでにたくわえた多くの有用なノウハウをもっています。これらをみすみす倒産によって失うことは、社会的に大きなムダといえましょう。

再建を支援するため民事再生法の登場



 そこで、新たに再建を支援するための法律「民事再生法」が制定され、本年4月1日よりスタートしました。
 民事再生法の対象に制限はありません。個人事業者にも、株式会社や有限会社にも、学校法人や医療法人などの団体にも適用され、また、大企業や零細企業といった規模の制限もありません。そのため、いろいろなパターンに応じて柔軟に法の運用ができるように工夫されており、基本的な流れはシンプルに、しかし必要に応じてさまざまな措置が講じられるようになっています。ここでは、概略のみを簡単に説明しましょう。

再建のためにはすばやい対応が不可欠



 まず、(1)破産する(支払不能となる)おそれがあるとき、または、(2)運転資金に手をつけたり工場を売るなど事業継続に著しい支障を来さずには弁済できないときには、再生手続きが開始されます(21条)。つまり、破産状態になる前に、手を打つことができるようになったのです。
 すでに、申立日の即日に開始が決定した事例もあり、多くが申立てから1〜2週間、遅くとも1ヶ月程度で手続きが開始されるなど、迅速な処理が行われています。また、開始決定までに取り付け騒ぎなどで資産が散逸することを防ぐために、とりあえず、仮処分や仮差押えで保全したり、あるいは債権者による強制執行などの手続きを中止させることもできます(26・27・30条)。

手続き開始後も主役は債務者



 再生手続きが開始されても、経営はそのままです。管財人が入ってすべての財産を管理するようなことは原則として行われません(64条)。ですから、現在の財産状況を調査して裁判所に報告し、債権者が届け出る債権について認否を行い、それらをふまえて再建のための再生計画案を作成するのも、すべて債務者自身の仕事です(右図再生手続きの流れ参照)
 ただ実情として、監督委員が選任され、業務や財産について報告を受け、帳簿等の検査をしたり、あるいは一定の行為については同意権などを行使することとなります(54・56・59条)。

必要不可欠な資産――時価で抵当権を抹消



 債権者は、債権の種類や額を裁判所に届け出ます。債務者がこれを認め、また異議ある場合は調査して、債権が確定します。確定すると、この債権は判決と同じ効力をもつこととなります。この確定した債権について、再生計画で弁済の方法などが決められるのです。
 もっとも、不動産に抵当権を設定していたとか、倉庫料金の未納分を預かっている商品で賄う(留置権)といった、担保権がある場合には、この再生手続きとは別に、担保権者はこれらを一方的に競売で売却して弁済に当てることができます別除権、53条)。そして、その担保で弁済しきれなかった部分を、再生計画に組み入れてもらうことになります(88条)。
 ただし、担保を売却されると再生手続きが妨げられるようなときには、相当の期間を定めて、競売手続きが中止されることもあります(31条)。しかもこれが、事業の継続に欠くことができない財産であるなら(たとえば工場用地など)、時価を裁判所に納付すれば、これについているすべての担保権を消すこともできると定められました(148条)。つまり、バブルの頃に極端な高値が付けられた抵当不動産も、今現在の価格さえ支払えば、抵当から抜くことが可能なわけです。

出席の過半数、総額の二分の一以上の賛成で可決



 再生計画案を提出する義務があるのは債務者です(特別に管財人が選任された場合は管財人)が、債権者も対案を提出することができます(163条)。弁済計画は原則として10年以内(155条)。
 こうして作成された再生計画案は、債権者集会において決議するか、あるいは書面で回答を求めて決議することになります(171・172条)。出席(回答)債権者の過半数で、しかも議決権の総額の2分の1以上の賛成があるときに、再生案は可決されます。
 この決議を受けて、裁判所は、その内容や手続きが適法か、計画の遂行の見込みはあるか、債権者一般の利益にかなうかなどを判断し、その再生計画を認可することになります(174条)。この計画が確定すると、原則として、それまでに届け出ておかなかった債権はすべてその権利を失い、免責されることになります(178条)。

再生計画の実現を保証するために



 再生計画が認可されると、一応再生手続きは終了です。もっとも、現実には監督委員が選任されていますので、この監督委員が計画の遂行を監督します(186・188条、このときは3年後または計画完了で手続き終了)。
 もし計画どおり弁済が行われなければ、確定債権は判決と同じ効力をもっていますので、債権者はすぐに差押えなどの強行措置をとることも可能です。また、一定の債権者(弁済残額の1割)が、計画が履行されないことを理由に申請すれば、再生計画を取り消すこともできます(189条)このときには債権内容は元の状態へ復活します。
 なお、再生計画がまとまらなかったり、計画が取り消されたりしたときは、裁判所は職権で、再建の見込みなしとして破産手続きに移行することができます。

債権者多数の賛成あれば、さらに簡易な手続きも



 以上の本来の手続きとは別に、総債権額の5分の3以上の債権者の賛成があれば、債権届出のあと調査・確定を待たずに、すぐに債権者集会で決議をすることもできます(簡易再生、200条)。もし債権者全員の賛成があれば、決議すら経ずに再生計画を認可することも可能です(同意再生、206条)。これにより、すでに任意再建の話合いが相当進んでいるものの、一部債権者の反対により決定できないケースで、よりスピーディーな再生処理が見込めます。
 このほか、企業の買収や合併に機敏に応じることができるシステムも新たに導入されました(42・43条)。再生手続きを開始した後、事業や営業の全部あるいは重要な部分を売却・譲渡することが、裁判所の許可を得ればできると明文化されたものです。株式会社についても、債務超過に陥っている場合は、株主総会の決議がなくとも、裁判所の許可が出れば譲渡ができると定められました。
*  *  *

 民事再生法の施行に伴って、旧来の和議法は廃止されました。新法は、運用に大きく委ねられているため、実務上の積み重ねで、より一層使い勝手のいい法律となることが期待されます。なお、給与所得者などの個人について(個人債務者更生手続き)は、別途、法律作成が急がれているところです。

[ことば欄]

☆倒産法(破産・特別清算・会社更生・会社整理・和議)
 倒産についての法律には、財産を処分し債権者に分けることを旨とする破産法と商法の特別清算、再建を目指すための会社更生法と商法の会社整理及び廃止された和議法があった。
 破産は、破産管財人がすべての財産を管理し債権者への平等な配分をめざすものであり、個人や会社その他公益法人も含めてすべて対象となる。これに対し、株式会社が解散に伴って清算するケースのうち、債務超過に陥っているため債権者の多数決による協定にしたがって分配するものを特別清算という。
 一方、会社更生は大規模な株式会社が対象であり、税金や別除権にまで制限を加えるなど、破産せずに再建ができるように大きな力をもたせている。管財人が事業を行い、更生計画に基づいて会社を建て直す。他面、複雑な手続きが必要となり、時間と費用がかかる。成功例の一つは牛丼の吉野家(7年で100%弁済を達成)。
 会社整理も、対象は株式会社に限る。整理案に債権者全員の同意を要する(実質上90%を超える同意で運用)など、制限が多いため、実際はほとんど活用されていない。民事再生法が制定されたのを機に、今後廃止も検討されている。
 これに対し和議は、対象を株式会社に限るなどの制限がなかったが、本文中に述べたような欠点のため廃止され、今回、新たに民事再生法が制定された。

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