
☆☆☆☆労働基準法の一部改正☆☆☆☆
裁量労働の適用拡大
特別な技能・資格をもたない一般サラリーマンにも
限定的にみなし労働時間制
H12.4.1スタート

労働者の賃金は、基本的にその労働時間に応じて支払われます。また、労働者の人権を守るために定められた労働条件の中でも、労働時間の規制はきわめて大きな位置を占める重要な規定です。
しかし、その業務の性質上、時間をもってその労働をはかることは不可能な特殊な場合に限って、労働基準法では、一定の時間働いたとみなすという特別の措置をとっています(裁量労働制、法38条の3)。
つまり、業務の性質上、そのやり方を労働者の裁量に大きくゆだねる必要があり、時間配分等について具体的な指示をすることが困難な業務については、労使協定を結ぶことで、協定で定める時間を労働したものとみなすというものです(みなし労働時間制)。
表 従来からの裁量労働制の対象業務
1 新商品・新技術の研究開発等
2 システムエンジニア
3 記事の取材・編集
4 デザイナー
5 プロデューサー・ディレクター
6 コピーライター
7 公認会計士
8 弁護士
9 一級建築士
10 不動産鑑定士
11 弁理士
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もちろん、これらが広く解釈されると労働時間の法規制は有名無実なものとなりかねません。そこで、この裁量労働が認められるのは、特別な技能や資格を必要とする11の業務にきびしく限定されていました(右表、規則24条の2の2)。
ところが今回の改正で、この4月1日より、一般サラリーマンでも特殊な一定の業務につく者に限って、裁量労働制の対象とすることとなりました。
新たに裁量労働の導入が認められたのは、(1)事業運営上の重要な決定が行われる事業場(本社・大きな権限をもち地域を統括する支社などに限る)で、(2)事業運営に関する事項について、調査・分析を伴う企画や立案をする業務です(企画業務型裁量労働、法38条の4)。もちろん、その内容が、大幅に当該労働者にやり方をゆだねる必要があり、時間配分等について指示は出さない場合に限ります。たとえば、財務状態等について調査・分析し財務計画を策定するとか、生産効率や原材料市場の動向などを調査・分析し原料調達計画を含めた全社的な生産計画を策定する、などがこれに当たるとされています。
しかも、対象となるのは、新卒などではなく、十分な知識や経験を有する者に限定され、さらにその本人の同意をも要することとされました。この同意をしなかったことを理由に、解雇や不利益な扱いをすることは禁止されています。
導入のための手続きについても、新たにきびしい規定がもうけられました。
従来の裁量労働は労使協定により導入が可能でしたが、新たな企画業務型裁量労働については、当該事業場に、労使委員会(賃金・労働時間等の労働条件を調査審議し、事業主に対して意見を述べることを目的とする委員会)を設置し、委員全員一致で決議しなければなりません。
労使委員会は、労使の代表者で構成され、[1]委員の半数は、労働者の過半数で組織する労働組合、これがない場合には過半数労働者の代表者に任期を定めて指名されていること、また、[2]各委員は、その事業場の労働者の過半数の信任を得ていること、が必要です。
労使委員会では、
(1) 対象とする業務
(2) 対象労働者の範囲
(3) 働いたとみなされる労働時間
(4) 対象労働者の同意が必要(同意しなかった者への不利益な扱いは禁止)
(5) 対象労働者の健康・福祉を確保するための措置
(6) 苦情処理に関する措置
(7) 決議の有効期間(当分の間1年以内)
等についてくわしく決議することになります。
この労使委員会は、労働基準監督署にその設置を届け出、また上の決議も届け出る必要があります。このほか、議事録の作成・保管、労働者への周知、実施状況の定期的な報告などについても具体的に義務づけられました。
今改正で、労使委員会の規定ができたことに伴い、従来、労使協定(労働者の過半数で組織する労働組合、これがない場合には労働者の過半数を代表する者と、使用者の間の書面による協定)によって定められるとされてきた、変形労働時間制やフレックスタイム制、一斉休憩の適用除外、時間外労働・休日労働の規定、従来の裁量労働制の導入等についても、労使協定によるほかに、この労使委員会で全員一致で決議すれば導入できるように改正されました(法32条の2〜5、法34・36・38・39条)。
* * *
新しい企画業務型裁量労働と労使委員会については、労働省がくわしい指針を出しています(平成11年12月27日告示)。
また、今後の状況を慎重に見極めるため、施行後三年で実施状況を検討し、必要な措置を講ずることとなりました(法附則11条1項)。


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