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新たな公的保険制度
介護保険法いよいよ平成12年4月1日スタート

 いよいよこの4月1日から介護保険がスタートしました。医療保険・年金保険などと同じく、広く国民に加入を義務づけた新たな公的保険です。
 身近に介護を要する人がいない、あるいはまだ若くて実感がわかないという方も、40歳以上になると必ず加入が義務づけられ、しかも2人に1人はいつか実際にこの保険から介護の給付を受けると予想されています。生活に直結した知識として、介護保険のあらましを説明しましょう。

市町村が運営

40歳以上が保険料負担

 これまで介護の政策は、福祉と医療の分野で分担してきました。いよいよ本格的な高齢化社会を迎えるにあたり、この制度ではパンク寸前です。そこで、これからは基本的に、みんなで拠出する保険の制度によって老後の介護を支援しようというのが介護保険の考え方です。
 介護保険に加入するのは原則として40歳以上のすべての人、保険を運営するのはその人の住む市町村です(地域によっては複数の市町村で広域連合をつくり運営することもある)。
 財源は、半額が公費負担で(国25%・都道府県12.5%・市町村12.5%)、残る半額を私たちが払う保険料でまかなうこととなります。
(1)65歳以上の人(第1号被保険者)
 市町村ごとに決められた保険料を納付します。この額は、介護サービスの水準や老齢化人口などによって市町村で差があります(1685円〜4100円)が、全国的に2900円前後がもっとも多いようです。これを基準に、収入に応じて5段階の保険料が決まります(図1)この保険料については、事業主の負担や国からの援助はありません。年金月額が1万5000円以上なら年金から天引きされ、これに満たないときは別途納付することとなります。

表1 第2号被保険者の保険料
40

64
健保組合平均 (自己負担分) 1,965円
政管健保平均 (自己負担分) 1,550円
国 保 平 均 1,280円

(2)40歳以上65歳未満の人(第2号被保険者)
 医療保険の保険料を納めるときに、同時に介護保険料も上乗せして納めます。サラリーマンなら、社会保険料に介護保険料を加算した額が給与から引かれます(ただし、医療保険と同じく労使折半)。また自営業者なら、国民健康保険料に介護保険料を加えて同時に納付することになります(同額が国庫から補助)。保険料は定額ではなく、医療保険の種類とその人の収入によって決まります(表1)。

利用には、まず認定手続きが必要

 さて、医療保険なら、自覚症状があって保険証さえ持参すれば、一部負担金を支払うだけで、どの医療機関でも自由に治療を受けることができます。しかし、介護保険では、もう少し複雑な手続きが必要です。
表2 特定疾病
1)筋萎縮性側索硬化症
2)後縦靱帯骨化症
3)骨折を伴う骨粗しょう症
4)シャイ・ドレーガー症候群
5)初老期における痴呆
6)骨髄小脳変性症
7)脊柱管狭窄症
8)早老症
9)糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症
10)脳血管疾患
11)パーキンソン病
12)閉塞性動脈硬化症
13)慢性関節リウマチ
14)慢性閉塞性肺疾患
15)両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

 まず、65歳以上の第1号被保険者なら、その原因のいかんを問わず、介護が必要と認定されれば保険が適用されます。しかし、45〜64歳の第2号被保険者の場合には、老化が原因とみられる15の特定疾病(表2)によって介護が必要になったときのみ、介護保険の適用となります。それ以外の原因では、介護費用は福祉か医療で支払われることになります。
 そして何より、ほんとうに介護が必要なのかどうか、どの程度の介護が必要なのかの認定を受けねばなりません(4月1日のスタートに向けて、すでに昨秋よりこの認定手続きが進められてきた)。
 認定申請の窓口は、市町村役場か介護センターなどで、備付けの申請書に保険証を添えて提出します。さらに、かかりつけの主治医(いなければ市町村が指定)から病状についての意見書をもらってこれも提出します(費用は全額保険から出る)。申請をすると、市町村から訪問調査員がやって来て、85項目にわたるチェックを行ない(コンピューターが判定する)、同時にそれ以外に必要な特記事項を聞き取ります。
 このコンピューター判定をもとに、特記事項・医師の意見書を考慮して、市町村に設置された介護認定審査会は、申請者が次のいずれに該当するかを決定し、通知します。

*要介護
 身体・精神上の障害があり、長期(6ヶ月)にわたり常に介護を必要とする状態。必要な介護の程度により5段階に区分される。
*要支援
 常時の介護までは必要ないが、長期にわたり日常生活に支援が必要な状態。
*自立
 右のいずれにも該当せず、介護の必要は認められない。

 申請から決定までは原則として30日以内です。また、6ヶ月ごとに更新手続きをする必要があります。もし症状等が変化したときは、いつでも区分の変更を求めることができます。この認定結果に納得できないときは、都道府県の介護保険審査会に不服申立をすることになります。

事前に具体的なケアプランの提出

表3 利用できる施設介護サービス<要支援は対象外>
施設介護サービスの種類 平均利用月額
1)介護老人福祉施設(特別擁護老人ホーム)
  食事や排泄など日常生活で常に介護が必要で、
  自宅での介護が困難な場合に入所する。

2)介護老人保健施設(老人保健施設)
  病状が安定しており、自宅へ帰れるようリハビ
  リに重点をおいた医療と介護を受ける。

3)介護療養型医療施設(療養型病床群等)
  長期にわたる療養・介護が必要で、リハビリや
  継続的な医療を受ける。

 33万1000円


 35万4000円


 44万2000円

※ 施設介護には在宅介護と異なり、利用の上限額はない。
  ただし、介護サービスの1割・食事代のうち標準負担分・
散髪などの日常生活費は利用者の負担となる。


 こうして、たとえ「要介護」「要支援」と認定されたとしても、保険が自由に使えるというわけではありません。介護保険では、要介護・要支援の区分によって、利用できる施設・サービスの種類、またそれぞれの限度が個々に細かく決められているからです。
  「要介護」と認定されれば、表3のいずれかの施設に入所することが可能です。
表4 給付の対象となる在宅サービスとは
1)訪問介護(ホームヘルプ)
  ホームヘルパーが訪問し、食事・排泄・入浴や炊事・掃除・洗濯
  などの介助をする。

2)訪問入浴介護
  移動入浴車などで訪問し、入浴の介助をする。
  看護婦(士)も同行して健康チェックする。

3)訪問看護
  看護婦(士)などが訪問し、療養上必要な世話や手当てをする。
4)訪問リハビリテーション
  理学療法士などが訪問し、自立を助けるためのリハビリを行う。
5)通所介護(デイサービス)
  日帰りの介護施設(デイサービスセンター等)で、食事・入浴・
  機能訓練などを受け各種催しに参加する。

6)通所リハビリテーション(デイケア)
  老人保険施設や病院などで、自立を助けるためのリハビリを行う。
7)福祉用具貸与
  特殊ベッド・車いす・歩行器・つえ・移動用リフト・痴呆性老人
  徘徊感知機器などを貸し出す。
8)短期入所生活・療養介護(ショートステイ)
  短期間(1〜2週間)施設に宿泊し、介護やリハビリを受ける。
  (介護区分ごとに6ヶ月あたりの日数を制限)
〔その他〕
◇居宅療養管理指導
  医師・歯科医・薬剤師などが訪問し、療養上必要な医学的な管理
  ・指導を行う。

         (1ヶ月当たりの回数で制限)
◇特定施設入所者生活介護
  有料老人ホーム・ケアハウスで暮らす人に、必要な介護サービス
  を提供する。

   (介護区分ごとに1日当たりの金額が制限)
◇痴呆対応型共同生活介護
  グループホームで暮らす痴呆状態の人に、必要な介護サービスを
  提供する<要支援は対象外>。

   (介護区分ごとに1日当たりの金額が制限)
〔特定福祉用具購入費の支給〕
  腰掛け便座・入浴補助用具・溲瓶・簡易浴槽などレンタルに適さ
  ないものの購入費。

            (1年に10万円まで)
〔住宅改修費の支給〕
  手すりやスロープの設置・滑らない床材への改装・ドアを引き戸
  になど小規模な自宅改修費。

               (20万円まで)
※ 1)〜8)については、介護区分ごとに1ヶ月の利用上限額
  が定められている(表5参照)。

 一方、「要支援」と認定された人や在宅での介護を希望する人表4のような給付を受けることができます。
 そしてこの在宅介護を保険を利用して受けるためには、あらかじめ介護サービス計画(ケアプランを作成して提出しておく必要があります。利用者が自分で作成することも可能ですが、適切な介護を保険の枠内で納めるよう手配するには、かなり複雑な計算が必要となります。また介護保険では、利用者は、サービス業者や施設と個々に契約を結ぶこととなりますので、きわめて煩雑な手続きも必要です。そこで現実には、介護支援専門員(ケアマネジャーに依頼して作成してもらうことになります(作成手数料は全額保険適用。自己負担0)。
 もしケアプランを作らずに介護サービスを受けた場合は、全額自分で支払って、後で保険の枠内の還付を受けることになりますが、きわめて煩雑な手続きとなりますのでご注意下さい。


在宅介護サービス 自己負担は1割


 さて、在宅で介護を受ける場合には、表5のような上限が定められています。この枠内でなら自己負担は1割でOKです。
 しかし、この枠をこえて手厚い介護を受けたいなら、その部分については全額自分で支払うことになります。
 一方、施設に入所する場合には、利用の上限はありませんが、介護費用の1割に食事代(一部)と日常生活費(全額)を合算したものが自己負担となります。
表5 介護区分と自宅での介護の支給限度額
介護状態の区分 区分のめやす(例) 自宅で介護する場合
1ヶ月の支給限度 短期入所の利用限度(6ヶ月ごと)
要介護5
 最重度の介護が必要
意思の伝達が困難。
生活全般に全面的な介護が必要。
35万8300円 42日
要介護4
 重度の介護が必要
排泄・入浴・着替えなど、日常生活に全面的な
介護が必要。
30万6000円 21日
要介護3
 中程度の介護が必要
歩行や立ち上がりができない。
排泄・入浴・着替えなどに全体的な介護が必要。
26万7500円 21日
要介護2
 軽度の介護が必要
歩行や立ち上がりが自力で困難。
排泄・入浴などに一部または 全体的な介護が必要。
19万4800円 14日
要介護1
 部分的な介護が必要
歩行や立ち上がりが不安定。
排泄・入浴など一部介助が必要。
16万5800円 14日
要支援
 社会的な支援が必要
日常生活は基本的に自分でできる。
歩行が不安定。入浴など一部介助が必要
 6万1500円 7日
※ 1ヶ月の支給限度枠は、表4の1)〜7)の費用と短期入所(ショートステイ)の費用を足したもの。
   金額については都市部などで地域により加算がある。また短期入所の日数も弾力的に運用される。

表6 自己負担の上限額
介護サービス費
(月額)
施設の食費
一般世帯37,200円 760円
市町村民税
非課税世帯
24,600円500円
生活保護・
老齢福祉年金
の受給者
15,000円300円
※ 施設の食費(自己負担額)は、高額介護サービス費
の支給対象とはならない。
 施設入所や家庭に複数の要介護者がいるなど、自己負担額があまり多額になって表6の上限を上回ったときは、申請すれば、超えた分が後ほど支給されるので安心です(高額介護サービス費)。

紆余曲折の果てに
      さまざまな経過措置

介護保険法が公布されたのは平成9年12月──それから2年半近くの準備期間があったものの、直前まで、重要な部分がなかなか決まらない事態となりました。現場が混乱する一方、いくつもの特別措置がとられることとなりました。

☆65歳以上(第1号被保険者)の保険料
 当面、半年は保険料は徴収しない。今年10月〜来年9月までは本来の額の半分とする。平成13年10月より規定の額を徴収する。
☆現に施設入所している者
 自立・要支援と認定されても、当面5年間は引き続き施設にいることができる。
☆現に施設・サービスを受けている者の自己負担分
 急激な負担増となることを避けるため、低所得世帯では当面の3〜5年は軽減措置をとる。
☆家族介護慰労金
 要介護4・5に該当する人を家族で介護し、1週間程度のショートステイをのぞき、1年間介護保険を利用しなかった場合に限り、金10万円を支給。

*       *       *

 介護保険は、法律によって全国一律の枠組みを決めたものにすぎません。利用料金や利用限度額などについても、都市部など地域ごとに価格差を設定しています。そしてあくまでも運営主体は市町村です。市町村では、条例で独自のさまざまな措置と規定を盛り込んでいます。
 介護保険の利用にあたっては、市町村の窓口で必ず相談するようにしましょう。介護保険の適用は無理な場合でも、独自の福祉施策が受けられることもあります。
 まだスタートを切ったばかりの介護保険──問題は山積しています。一つ一つ現実にぶつかりながら、少しでもよりよいものへ手を加えていく必要がありそうです。




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