日本型雇用システムの終えん!?
安定雇用から流動的な労働力活用へ
人材派遣――対象職種を原則自由化
労働者派遣業法・職安法の改正
平成11年12月1日スタート


 長引く不況のなか、リストラという名の首切りがかつてない規模で行われています。もはや「終身雇用制」のうえにあぐらをかいてすむ時代ではなくなったのです。
 企業は生き残りをかけて人件費の削減をめざし、また硬直した組織から時代の要請に機敏に対応できるさらに柔軟な組織へ再編しようと、正社員から契約社員や派遣社員への切替えがさかんです。今、日本の雇用体系は大きく変わろうとしています。

新たな就労形態として生まれた派遣業法

 もともと、強制労働や中間搾取から労働者の人権を守るため、職業の紹介・斡旋などの事業は原則として国だけが公的に行えることとされてきました(戦前は、賃金のピンはねなどが横行し、やくざの資金源ともなっていた)。
 しかし、近年、技術はめまぐるしく変化・進歩し、それに応じたさまざまな専門的な労働力が必要となり、あるいは、社会の複雑化にともない新たな職種も生まれて新たな技能をもった労働力が必要とされるようになりました。これらをすべて自社内でまかなうことは不可能です。そこで、広く社外の知恵や労働力を活用することがあたりまえとなっています(アウトソーシング)。労働者のライフスタイルも多様化するなか、もっと柔軟な雇用の形態として派遣労働が生まれました。1986年には「労働者派遣業法」(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律)が制定され、専門的な職種に限って派遣が法的にも認められるようになりました(そよ風23号参照)。
 ところが、今回この法律が大きく改正され、派遣労働を“一時的・臨時的な労働力需給システム”として、社会的に位置づけしなおすこととなりました。同時に、有料の職業紹介事業も広く民間に解禁されることになり、日本の雇用システムは、終身雇用制からより流動的なものへと大きく変わろうとしています。

派遣の職種制限を撤廃 営業・販売・一般事務も

 労働者派遣業法は、これまで、一定の専門的な職種として定められた26業種についてのみ派遣が認められていました。そして1994年には60歳以上の高齢者について、また1996年からは育児休業・介護休業のピンチヒッターとして派遣される場合に限ってのみ、こうした職種制限が撤廃されてきました(そよ風87号参照)。
 さらに本年(1999年)12月からは、この職種による制限が原則としてなくなり、1)港湾運送業務、2)建設業務、3)警備業務、4)医療関係業務(医師・歯科医・薬剤師・保健婦・助産婦・看護婦・栄養士・歯科衛生士・X線技師・歯科技工士)の4つをのぞき、自由に派遣することができることとなります(法4条1項、令1・2条)。
 ただし当分の間は、製造業務についても、産休・育休・介護休業のピンチヒッター以外での派遣は認められていません(法附則4項)。
 これらの規定に違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金となります(法59条・附則6項)。これにより、営業・販売といった新たな分野への派遣の大幅な進出が見込まれています。

派遣期間は原則1年にきびしく限定

 ただし、派遣社員は一時的・臨時の労働力であり、正社員などの常用労働者の地位を脅かさないようにとの配慮から、派遣期間は最長1年間と定められました(法40条の2)。同一の業務に引き続き1年以上派遣を行った場合には、その派遣元の会社に対し30万円以下の罰金が科せられます(法61条3号)。
 ここでいう同一の業務とは、事業所などの場所ごとに、業務の最小単位である課や係・班・グループなどで同一の業務に派遣社員を1年以上継続して当てることをいいます。また、派遣終了後3ヶ月以内に同一業務に派遣社員を当てることも禁止されています。たとえ、異なる派遣会社から異なる派遣社員を受け入れた場合でも、この規定が適用されます(指針)。

派遣期間3年が認められた業務(法40条の2第1項1号、令4条)
1 ソフトウェアの開発・保守
2 機械・設備の設計
3 放送機器等の操作
4 放送番組等の演出
5 事務用機器の操作
6 通訳・翻訳・速記
7 法人代表者等の秘書
8 文書等ファイリング・分類
9 市場等の調査と整理・分析
10 財務処理
11 外国・国内取引文書の作成
12 デモンストレーション業務
13 主催・手配旅行の添乗業務
14 建築物の清掃
15 建築設備の運転・整備等
16 受付・案内、駐車場管理等
17 科学研究・開発
18 事業実施体制等の調査・企画・立案
19 図書の制作・編集
20 広告デザイン業務
21 インテリアコーディネーター
22 アナウンサーの業務
23 OAインストラクター
24 電話勧誘の営業
25 セールスエンジニアの営業業務
26 放送番組等の大道具・小道具の業務

 もっとも、従来からの適用業種であった26業種については専門性があるということで、これまでどおり、3年間(1年契約を2回更新可能)の派遣が認められています。また、(a)事業の開始・転換・拡大・縮小などのための業務で、一定期間に終了することが予定されているとき、(b)産休・育休をとる労働者の代替要員として派遣されるときにも、1年以上にわたる派遣が例外的に認められました(法40条の2、令3条)。

弱い立場の派遣労働者を守るために


 この業種による制限の撤廃により、正社員から派遣社員への転換がさらに急速に進むことが予想されています。しかし現在でも、派遣労働者は、その不安定な立場ゆえにきびしい労働条件の下におかれています。
そこで、今回の法改正に加え、派遣会社と派遣先の会社が注意すべき事項をそれぞれ「指針」として具体的に定め、以下のような派遣労働者の保護策を明文化しました。

1) 中途解約への対応(指針)
 派遣先の会社は、相当の猶予期間をもって契約の解除を申し出ること。また、関連会社などへの就業を斡旋するなど次の仕事の世話をすること。それができないなら労基法と同じく30日前の解除予告かその分の賃金相当額の損害賠償を義務づける。また、派遣会社から請求があれば、中途解約の理由を明らかにすること。
2) 正社員への道を開く(法49条の2・40条の3)
 もし法に違反して1年以上の派遣を受けており、その派遣社員が正社員への登用を望むなら、労働大臣は派遣先へ正採用を指導・助言し、従わなければ勧告、さらに企業名を公表する。また、1年間派遣を受けた業務に新たに人を雇う際に、もと勤めていた派遣社員が就職を希望し派遣会社をやめるなら、優先的に採用するよう努力すること。
3) 社会保険などの適用促進(法6条・17条・35条、指針)
 原則として2ヶ月以上継続して雇用するなら社会保険(保険料は労使折半)等への加入が義務づけられている。しかし未加入問題が深刻で、一昨年には会計検査院の検査で100億円超の追徴も行われた。これを受け、人材派遣業の許可・届出の欠格事由として、暴力団対策法違反に加え、これら社会保険関係の法律違反が追加された。また、派遣会社は派遣先の会社に保険加入の有無を通知する義務があり、派遣先はきちんと加入している労働者を受け入れること。
4) 事前面接などの禁止(法26条7項・47条の2、指針)
 本来、派遣先は派遣会社に一定の能力をもつ社員の派遣を要請するのみで、当該社員の選択権は派遣会社にある。しかし、事前面接・履歴書による選別、あるいは若年・女性希望などと制限を加えるなど、派遣先会社による一種の採用行為ともいえる越権が日常的に行われている。これらはいずれも違法であり禁止する。
5) 福利厚生の確保とセクハラ防止(法40条2項、指針)
 派遣先の会社は、一般社員と同様に診療所・食堂等の設備を利用させること。またセクハラを防止して適切な就業環境を提供すること。

法律違反は職安を通じ労働大臣に申告を

 このように派遣労働者の保護規定は法のうえでは充実してきましたが、いかに現実に保障されるのかが問題です。派遣労働者は、これらの法律に違反した行為がなされたときには、労働大臣に申告できることが明記され、この申告を理由として解雇その他不利益な扱いをすることは禁止されます(法49条の3)。この規定に違反したものは、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(法60条)。
 なお、公共職業安定所(ハローワーク)が派遣労働者の具体的な相談窓口となっています(法52条)。

有料職業紹介事業も   職種制限は原則廃止に

 労働者派遣業法の改正と同時に、「職業安定法」も大幅な改正が行われました。
 従来は、公共職業安定所(ハローワーク)と学校などで行われる無料の職業紹介をのぞき、民間の有料職業紹介事業は原則として禁止されていました。美術家・家政婦・理容師・調理師といった特別な業種に限って、きびしい規制の下許されていたにすぎません(そよ風23号参照)。
 今回の職安法の改正により、この有料職業紹介事業が、(1)港湾運送業務、(2)建設業務以外なら、労働大臣の許可を受けて自由に行えることとなりました(法30条・32条の11)。もっとも、ピンはねなどを防止するため、手数料等についての規制は残されています(法32条の3)。これからは、民間のノウハウを広く利用して、適材適所への求人を素早く行い、失業率を減らそうというものです。しかし、派遣業法の改正とあいまって、かつてない膨大な量の求人・求職情報が民間の手によって流通することとなります。

労働者の個人情報・プライバシーを保護するため

 数年前、派遣会社に登録した社員の情報が、氏名・住所・電話番号・生年月日に加え、ランク付けまでされて、インターネット上に不正に流され売り買いされるという事件が起きました。求人・求職情報のネット化を進めるにあたり、こうした杜撰な個人情報の管理が二度となされてはなりません。
 そこで、人材派遣会社・有料職業紹介事業を許可するにあたり、こうした個人情報を適正に管理し、秘密を守るための措置が十分とられているかどうかが、許可基準として盛り込まれました(派遣法7条、職安法31条)。
 また、職務上知りえた個人情報は、在職中はもちろん退職後も他に漏らさないことが義務づけられています(派遣法24条の3、職安法5条の4)。
 さらに個人情報の収集に際しては、業務上必要な範囲に止めることが明記されました(各指針、職安法五条の四)。たとえば、人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地その他差別のおそれのある事項や、思想・信条、労働組合への加入の有無などについては、どうしても業務上不可欠で本人の了承を得なければ、聞くことは禁止されます。
 また個人情報は、本人からの要求に応じて開示され、訂正されるべきことも定められました。
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 労働者派遣業法・職業安定法ともに、3年たった時点であらためて施行後の状況を検討することになっています。今回の改正が、不安定雇用と労働条件の引下げだけを進めることに堕さないため、慎重な監視と運用が望まれます。




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